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株式会社日立医薬情報ソリューションズ

Column

要らない薬

「医薬」よもやまばなし

2020年07月10日

40兆円を超えて尚増加傾向にある国民医療費の中で、薬剤費は約5-6兆円を占めています。
かつて大量の処方が「薬漬け医療」と批判されたこともありました。医師が処方するほど医師自身の利益に繋がる薬価差益に関しては、前回触れた薬価改定を通じて是正されてきています。有用な薬剤には医薬品開発推進の観点からも相応の薬価を付ける必要があり、薬剤費は単純な抑制というより医薬品の適正使用による薬剤費の適正化が求められます。
医薬品の適正使用は、費用の面からだけでなく最適な医療に繋がるものです。
適正使用の取組みのうち、今回は特に高齢者で問題視されるポリファーマシーについてみてみましょう。

ポリファーマシーとは

ポリファーマシーというのは、「poly(複数)」+「pharmacy(調剤)」から成る言葉で「多剤併用」を意味しますが、単に服用する薬剤数が多い状態を示すのではなく、臨床的に必要以上の医薬品が処方されていて害をなすものを指します。
状況に応じて必要な処方は異なるので、ポリファーマシーとする薬剤数について明確な定義がある訳ではありません。しかしながら、薬剤数が増えれば有害事象は増加し、特に6種類以上の場合に有害事象リスクが増加するとされます。

ポリファーマシーの形成

ポリファーマシーが起こる背景・状況を考えてみましょう。

複数の疾患があって、複数の医療機関・診療科に掛かっている場合、それぞれから処方されることで服用薬剤が増えてしまいます。特に治療の主体ではなく、補助的に処方される薬剤が重複して処方されるケースがあります。これは単純な重複処方であれば、一方を減らすことが可能と考えられます。

また、使用した薬剤の副作用と気付かずに、その副作用の症状を緩和するために別の薬剤で対処し続けるという負のスパイラル「処方カスケード」と呼ばれるケースもあります。これも特に異なる受診先がある場合に起こりえますが、副作用の原因となっている可能性のある薬剤を変更することが本質的な解決であり、これにより薬剤を減らせる可能性があります。

あるいは、処方された薬を正しく使用していない(服用していない)場合、医師は正しく使用していることを前提に診療するので、処方した薬剤が効いていないと判断して更に薬を追加処方するというケースもあります。この場合、薬を正しく使用することで、本来は必要でない薬剤を減らせる可能性があります。

また、普通に処方される併用でも望ましくない症状を引き起こすこともあり、処方後のフォローも重要となります。

本来必要でない薬剤の処方・服用は有害事象の発生等の悪影響に繋がり、ポリファーマシーの状態となります。また医薬品の使用量の増加は医療費増加にも繋がります。

残薬問題

必要以上の薬剤が処方されている問題がある一方で、処方されながら服用されなかった薬(残薬)が大量にあるとの調査結果があります。(その規模は数百億円から数千億円にもなるという試算もあるようです)

残薬の原因としては、以下のようなことが挙げられます。

  • 飲み忘れ、服用方法の理解不足による処方通りでない服用、自己判断での薬の中断
  • 薬の過剰投与や多種類の薬を服用したことによる有害事象の発生による服用の中止
  • 受診間隔と処方日数がずれ、新たに処方されたことによる前回処方の余り

治療を確実に進めるためには、処方された薬剤を正しく服用することが必要です。患者自身が自分の病気を理解し、医師の治療方針に協力しながら正しく服薬するという「服薬アドヒアランス」を向上させる服薬管理も重要と言えます。

高齢者における問題

ポリファーマシー・残薬に関しては、特に高齢者において問題視されています。

高齢になると、複数の病気をもったり、不調を訴えることが多くなります。病気・症状・不調が増え、また受診する医療機関が複数になることで、処方される薬剤が多くなる傾向があります。
また、高齢になると、肝臓や腎臓の機能が低下していきます。肝機能は薬剤の代謝に、腎機能は体外への排泄に関わります。(以前のコラム「薬の基本」で触れた体内動態ADMEです)
薬剤の分解・排出が正常に働かないと、体内に余剰の薬剤が存在することになります。薬剤の数が増えると薬剤同士の影響(相互作用)もありえますし、必要以上の薬剤が体内にあるのは望ましくない状況で、期待する薬効が効きすぎたり効かなかったり、副作用が出やすくなったりします。
また、飲み忘れや飲んだことを忘れての過剰服用、勝手な判断による中断など、適正な服薬が行われないといったリスクもあります。

減薬への取組み

処方の適正化を進めるには、処方全体の把握が第一歩です。そのうえで、使用する医薬品を適正に減らすことが可能かどうかを判断し対処することになります。 処方情報の一元管理としては、お薬手帳があります。また、電子処方箋の検討も行われています。
処方を行う医師や調剤を行う薬剤師など、医療に関わる専門家が情報を共有・把握して適正処方・適正服用をすすめていくことが重要です。

減薬への取組みに対して、診療報酬の面において条件を満たす場合に、医科診療報酬として薬剤総合評価調整管理料(入院患者以外)及び薬剤総合評価調整加算(入院患者)、調剤における薬学管理料としては服用薬剤調整支援料が算定できるようになっています。

薬剤併用の実態把握やハイリスクな薬剤併用等、医療・処方における無駄や改善に関する研究も進んできています。
患者さん自身と医療関係者が連携して、処方情報の正確な把握に基づく適正処方、そして適正服薬によって、最適な治療が進められ、医薬品の適正使用と薬剤費の適正化が図られていくことになります。

私たちの健康に大きな役割を担う医薬品、そして医療・ヘルスケア。
そうしたQOL(Quality Of Life)産業界全般にわたって、そのプロセスや情報を支えるITを介して、日立医薬情報ソリューションズは人々の健康・QOL向上に貢献していきます。


2020年07月10日
吉田 亜登美

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