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Column

病める脳の話 その1

「医薬」よもやまばなし

2026年09月10日

身体の全てをコントロールしているといっても過言でもない「脳」。脳は様々な機能を担い、その活動は循環系を流れる大量の血液が支えています。
今回はこの「脳」の外傷と循環系疾患(脳血管障害)についてみてみましょう。 

頭部外傷

外傷性脳損傷としては、直接的に外力が加わったことによる直撃損傷以外にも、頭蓋骨の中で脳が動くことによる損傷もあります。

脳震盪は、頭部や身体への強い衝撃によって脳が揺さぶられることで起こる一時的な機能障害で、通常は可逆的で改善します。しかしながら、脳震盪を繰り返すと、症状が重篤化しやすく、致命的な状態や深刻な後遺症を引き起こす可能性があります。

脳挫傷は、頭部への強い衝撃により脳自体が損傷を受けるものです。直接の受傷部位の損傷だけでなく、血腫、脳浮腫、感染症に至ることもあります。

急性頭蓋内血腫は、頭部外傷などによって頭蓋内で出血が起こり、血腫が形成されたものです。出血部位によって、急性硬膜外血腫(頭蓋骨内面と硬膜の間)、急性硬膜下血腫(硬膜下腔)、脳内血腫(脳実質部・・神経細胞や神経膠細胞などからなる脳の実質の部分)があります。
頭蓋骨は伸縮性がないため、頭蓋内で出血が起こると、頭蓋内圧亢進(頭蓋骨内の圧力が異常に高くなる)が起こり、脳内出血と同様の状況となります。

脳血管障害

「脳血管障害」とは、虚血(脳に充分な血液が行かない状態)あるいは出血によって、脳にダメージがある状態、または脳血管自体に障害がある状態を言います。
血管の閉塞・破綻などによって、突然神経症状が発現した状態を「脳卒中」と総称します。虚血性疾患は脳血管の狭窄・閉塞によるもの、出血性疾患は脳血管の破綻によるものです。前者としては「脳梗塞」、後者としては「脳内出血」や「くも膜下出血」があります。

脳卒中(脳血管疾患)は、かつては死因別死亡率の第1位でしたが、1970年頃をピークに減少に転じ、現在は悪性新生物(がん)、心疾患、老衰に次ぐ第4位となっています。死亡率は低下しているものの、患者数は多く、寝たきりなどの後遺症も深刻です。
脳卒中の危険因子としては、高血圧、糖尿病、脂質異常症などの基礎疾患、喫煙、過度な飲酒、肥満、運動不足といった生活習慣が挙げられます。
代表的な症状としては、片麻痺(半身に麻痺が起こる)、痺れや感覚障害、失語(認識できているが言葉が出てこない)・失認(感覚を介して対象物を正しく認識できない)・構音障害(はっきり話すことができない)、視野障害といった、損傷された脳の部位の機能に対応した局所神経症状が出ます。
脳卒中では、早期治療が救命率に関わり、また選択できる治療や予後に影響しますので、症状が一過性であっても、早期に受診することが勧奨されます。

脳卒中は、リスクとなる生活習慣の改善、生活習慣病を悪化させないといった予防が大事であり、発症時には速やかに治療を受け、発症後は早期にリハビリテーションを開始することで障害回復、再発予防を図ることが重要です。

<脳梗塞>
脳卒中のなかでも多いのは、脳梗塞です。脳血管の狭窄・閉塞により血行が途絶することで虚血が起こり、脳組織が酸素や栄養を受け取れなくなり、機能障害や壊死に至る疾患です。
病型として、アテローム血栓性脳梗塞、心原性脳塞栓症、ラクナ梗塞があります。

アテローム血栓性脳梗塞は、動脈硬化(アテローム硬化)によって起こります。動脈硬化で血管壁にプラークがついて血管が狭くなったところに血栓(血の塊)が形成されて閉塞する血栓性、他の動脈硬化部位でできた血栓の一部がはがれて脳動脈に詰まる塞栓性の2種類の機序があります。
安静時に発症し、進行は緩やかなことが多いのが特徴です。

心原性脳塞栓症では、心臓でできた血栓の一部が流れてきて、脳動脈を塞ぐことで起こります。心臓内での血栓は、心房細動や心筋梗塞等の心疾患により形成されます。
心原性脳塞栓症は、日中の活動時に突発的に発症します。

ラクナ梗塞は、脳深部の穿通枝(脳動脈の細い枝)領域に起こる小さな梗塞です。血管壁の変性や微小アテローム形成による血管閉塞によって、発症します。
症状は比較的軽度ですが、多発すると、血管性認知症やパーキンソン症候群の原因となることがあります。

血栓溶解療法t-PA(tissue plasminogen activator:組織プラスミノゲン活性化因子)は、血栓内のプラスミノゲンを活性化してプラスミンへ変換し、プラスミンが血栓内のタンパクであるフィブリンを分解することで詰まった血栓を溶かす働きがあります。発症後4.5時間以内であれば、血管を再開通させ、脳細胞の壊死を防ぐ可能性があります。ただし、出血のリスクもあるため、使用には様々な条件があり、適用されるのは脳梗塞患者の一部です。発症からの対応が遅れると回復の可能性は低下するので、発症からの時間との勝負です。
次なる手段としては、カテーテルを用いて、血管の内側から病変へ到達し、血栓を物理的に回収する血管内治療があります。
急性期の治療薬としては、抗血小板薬や抗凝固薬、脳保護薬(フリーラジカルを除去して細胞傷害から脳を保護する)が用いられます。

一過性脳虚血発作(TIA)は、脳虚血により局所神経症状が現れるものの、脳梗塞には至っていない一過性の症状です。90日以内の脳梗塞発症率は約5%、うち半数は2日以内の発症と言われており、脳梗塞の前兆として留意する必要があります。

<脳内出血>
脳内の細い動脈が破裂して出血するもので、血腫によって脳組織が圧迫され、局所神経症状及び頭蓋内圧亢進症状を示します。高血圧が最大の原因となります。
出血の部位や出血量によって症状や重篤度が異なります。

意識レベルの低下があり、切迫した脳ヘルニアの所見がある場合には、血腫を除去する手術が行われます。但し、脳の深部で重要な神経の集まる脳幹や視床に対しては、血腫除去術は行いません。
脳ヘルニア・・通常、硬膜で仕切られたコンパートメントに収まっている脳が、本来の位置から押し出される状態。意識障害や瞳孔拡大、対光反射消失、片麻痺等の所見を示す。

意識が清明で症状が軽微な場合には、血圧・呼吸管理や輸液といった内科的治療が行われます。
また、手術をしても改善が見込めない重篤な場合には、手術の適応外となります。

<くも膜下出血>
脳表面の血管の破裂によって、くも膜下腔へ出血が生じたもので、殴られたような突然の激しい頭痛に襲われます。急速かつ重篤な経過を辿ることが多く、死亡や重度の後遺症を残すことが多い疾患です。
原因として最多なのは、脳動脈瘤の破裂によるもので、これにより脳が圧迫されて頭蓋内圧の亢進が起こります。血管の破綻により脳潅流圧(脳内の実効的血圧)が低下して、脳は虚血状態となります。
頭蓋内圧を薬によって下げ、再出血予防のための手術やドレナージによる血腫除去(髄液とともに血腫を排出させる)を行います。

<脳動脈瘤>
くも膜下出血の原因として最多である脳動脈瘤の破裂ですが、脳動脈瘤は脳の動脈の主に分岐部にできる血管の膨らみです。
先天的な動脈壁の中膜(血管壁は外膜・中膜・内膜の三層構造)に欠損があり、後天的な高血圧・動脈硬化などの要因で袋状の膨らみができて血液が溜まって、動脈瘤が拡大するものです。





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2026年9月10日
吉田 亜登美