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Column

はたらく脳を視る話

「医薬」よもやまばなし

2026年08月06日

脳は身体にとって重要な機能を担い、働き続けています。ではこの活動はどのようにして視ることができるでしょうか。
今回は、このはたらく「脳」を視るためのいろいろな検査についてみてみましょう。 

画像検査

<脳CT検査(Computed Tomography)>
X線CTは、被写体の周囲からX線照射を行い、被写体を透過したX線量を検出・処理することで断層画像を撮る検査です。
骨や血液の描出に優れた検査で、脳内出血やくも膜下出血、脳梗塞、骨折・出血といった頭部外傷、脳浮腫(脳の腫れ)など、急性の異常が検出でき、放射線被曝はあるものの、検査が迅速なため緊急時・救急において最優先で利用されます。

<脳MRI検査(Magnetic Resonance Imaging)>
MRI(磁気共鳴画像)は、強い磁石によってつくられた磁場の中に置かれた生体に対して電波(ラジオ波)を照射することにより、体内に分布する水素原子核(プロトン)の磁気共鳴現象による信号が測定され、体内における水素原子核の分布・運動状態を反映した画像が得られるものです。
この画像から脳腫瘍、脳梗塞や動脈瘤など血管の異常、神経疾患、それに小さい出血や慢性的変化といった細かい組織構造や早期の病変の状態が解ります。
検査時間が数十分と長いですが、放射線の被曝がなく、非常に詳細な画像が得られる検査です。但し、強力な磁場を扱うので、ペースメーカーのような体内電子機器、人工関節、磁性異物、それに閉所恐怖症といったことには注意が必要です。
機能的MRI(fMRI)では、血液中のヘモグロビンが酸素を放した際のMRI信号の変化(ボールド効果)を捉えるもので、脳が働くとその部分に血流・酸素が増えることから、その変化により脳のどの部位の活動が高まったかが解ります。
またMRS(Magnetic Resonance Spectroscopy)は、脳内の代表的な代謝物質を測定することで、病変の状態を評価するのに用いられます。

核医学検査

核医学検査は、放射性同位元素を含む薬剤を投与して、その目標臓器や病巣における分布を、放射性同位元素が放出するγ線を検出して画像化する検査です。
核医学検査も画像検査の一種ですが、CT/MRIが形状の把握に優れているのに対し、機能・活動を視ることができます。

<SPECT(スペクト)>
SPECT(単一光子放射コンピュータ断層撮影)は、微量の放射性同位元素で標識された放射性医薬品を用いて脳の血流動態を見る検査で、脳の活動状態、脳の機能低下が把握できます。
具体的には、脳梗塞(血流が低下している場所)、認知症(アルツハイマー型などの特徴的な血流低下)、てんかん(発作の起点)、脳の後遺症や機能障害といった病気の診断・鑑別に有用です。

<PET(ペット)>
PET(陽電子放射断層撮影)は、ポジトロン(陽電子)を含む検査薬を投与して脳のどの部位に取り込まれるかを測定することで、脳における代謝(エネルギーの使い方、多くはブドウ糖の消費)を見る検査で、脳細胞の活動状況を非常に早期の変化から捉えることができます。
認知症(超早期から異常が出る)、脳腫瘍(活動が高い部分が解る)、てんかん焦点、パーキンソン病などの神経疾患などの病状把握に有用です。

光トポグラフィー

光トポグラフィー(近赤外分光法:NIRS)は、脳の活動を調べる検査で、特に大脳の表面の動きを見るのに使われます。
脳が働くとその部分の血流・酸素量が増えますが、この検査では頭にセンサーをつけ、近赤外光を当てて血液中の酸素(血中ヘモグロビンの酸素化状態)の変化を測定します。これにより、脳のどの部分が、どのくらい活動しているかが解ります。
会話、思考、記憶などにおける脳(前頭葉)の活動の変化、うつ病(前頭葉の活動低下)や統合失調症(活動パターンの異常)、発達障害・高次脳機能の状態を把握するのに用いられます。
放射線も用いず体に負担がほとんどない非侵襲な比較的簡単・安全な検査ですが、脳の深部は見えず、空間的な精度はMRIより低いこともあり、診断では補助的な位置付けになっています。

脳波

脳が活動している時は、脳の神経細胞から微弱な電気が発生しており、脳内のまとまった神経細胞が起こす集合的な電気活動を測定・記録したものが「脳波」です。頭皮に複数の電極(センサー)を貼り、脳の神経細胞が出す微弱な電気信号をセンサーで検出し、これを記録します。痛みはなく、身体への負担もほとんどない検査です。
脳波は周波数によって以下のように分類されます。

  • α波:周波数・・8~13 Hz。安静時・リラックス時
  • β波:周波数・・13~30 Hz。活発な思考や緊張・集中時等、脳の活動性が高い時
  • γ波:周波数・・30 Hz以上(速波)。覚醒時・高度な認知活動時
  • θ波:周波数・・4~7 Hz。浅い睡眠時
  • δ波:周波数・・0.5~4 Hz(徐波)。深い睡眠時・意識障害

脳波の振幅・周期・形状から脳の活動状態が解ります。

  • てんかん:発作時や発作間欠期(発作が出ていない時)に異常な脳波(棘波等特異的なてんかん波)がみられ、発作のタイプや発生部位の手掛かりとなる。
  • 意識障害・脳機能の状態:昏睡状態や脳症(代謝異常・感染など)といった意識レベルの低下や脳全体の活動の低下・異常がδ波の増加などで評価できる。
  • 睡眠の状態:ノンレム睡眠ではθ波・δ波の出現で睡眠の深さが判断できる。レム睡眠では低振幅で高周波の速波が現れ、覚醒時の脳活動に近い状態になる。
  • 脳の発達・機能評価:成長に伴う脳波パターンの変化により、脳の発達の評価、脳機能の成熟度をみる。
  • 脳死判定:脳の電気活動が消失しているかが判定の一つになっている。

脳波は、非侵襲な上、脳の電気活動を直接測定できて、リアルタイムの変化が解る検査ですが、脳の構造的な部分は解らず、深い部分の活動は捉えにくく、動きやノイズの影響を受けやすいというデメリットもあります。

脳脊髄液検査

脳脊髄液検査は、腰に針を刺して脳脊髄液(髄液)を採取する(腰椎穿刺)ものです。髄液は、脳と脊髄のまわりを流れている透明な液体で、脳・神経の状態を反映します。
採取した髄液を分析することで、感染・炎症・出血・腫瘍などの異常が解ります。
白血球の増加、細菌・ウイルスの有無、糖・タンパクの変化により髄膜炎(細菌・ウイルス)や脳炎といった感染症が、髄液に血液が混じる(キサントクロミー)で出血(くも膜下出血)、異常なタンパク質や抗体の存在から多発性硬化症やギラン・バレー症候群といった神経の病気(自己免疫・炎症)、髄液におけるがん細胞の存在で脳腫瘍や白血病の広がりが把握できます。
また髄液圧(髄液の圧力)の測定から、髄液の増加(脳圧亢進)や水頭症などが解ります。

脳脊髄液検査は、脳・脊髄の内部の状態を直接反映しており、CT・MRIでは解らない情報が得られ、感染症や炎症の診断に非常に重要ですが、腰椎穿刺は侵襲的で、検査後に頭痛(低髄液圧頭痛)が出ることもあり、また出血傾向がある人などは注意が必要です。




◇脳のオルガノイド

オルガノイドは人工的に幹細胞から臓器や組織の一部を再現したものです。
脳のオルガノイドについては、iPS細胞やES細胞から脳に似た3次元組織を作ることができており、複雑な構造を再現するには至っていませんが、ヒトの脳を部分的に再現して研究できる段階にあると言えます。
アルツハイマー病や神経変性疾患のような脳疾患のモデル化、患者由来細胞を用いた創薬・個別医療への応用、それに脳発生プロセスや神経活動の研究などが進められています。





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2026年8月6日
吉田 亜登美