
身体の種々の機能は脳によって制御されていますが、その仕組みは複雑で、脳の各部に固有の機能が局在しつつ連携しています。
今回はこの「脳」におけるいろいろな機能のメカニズムについてみてみましょう。
外界からの刺激を受け取った感覚器の情報は、視覚・聴覚・体性感覚(触覚・温痛覚など)では物理的変化を、味覚・嗅覚では化学的変化を、電気信号に変換して神経を伝わります。感覚の情報は大脳皮質の一次感覚野に送られて処理され、更に高次感覚野でより複雑な特徴を認識します。
これら複数の感覚情報の統合(頭頂葉など)が行われ、感覚情報は海馬(記憶)や扁桃体(情動)と連携して、過去の経験や感情と結びついて意味付けされます。知覚された情報は、前頭前野などで認知的判断へと変換されます(感覚⇨知覚⇨認知)。
内臓から脳へ送られる感覚情報である内臓感覚は、主に内臓⇨迷走神経⇨脳幹⇨視床⇨大脳皮質という経路で伝えられます。脳幹では生命維持のための処理が行われ、視床で中継されて大脳の島皮質(前頭葉・側頭葉・頭頂葉・基底核に囲まれた深部領域)で体の状態として認識されます。
自らの意思で行う随意運動においては、感覚情報などをもとに、前頭前野(前頭葉)で考え、一次運動野(前頭葉)が運動実行の指令を骨格筋に送ります。大脳基底核は、姿勢の保持、運動の開始・停止や円滑な動きとなるような調節を行います。小脳は、運動の方向やタイミング、平衡感覚を調整します。
大脳基底核は、大脳皮質-大脳基底核-視床-大脳皮質のループ回路により運動を調節しています。
小脳は、大脳皮質・脊髄・前庭神経系からの情報をもとに、運動の補正・予測によって、姿勢・協調運動の制御を行っています。
一次運動野から脊髄へと信号を伝える経路である皮質脊髄路(錐体路)を介して、骨格筋の運動に繋がります。
運動の実行を指令するのは一次運動野ですが、大脳基底核や小脳との連携による調節がなされています。
<記憶>
記憶の種類は、時間軸の観点で、短期記憶と長期記憶に分類されます。短期記憶は、数秒から数分程度の短い時間内の情報を保持する記憶、長期記憶はそれより長く保持される記憶です。(長期記憶を、数分から数日程度の比較的最近の出来事を記憶する近時記憶と、数日から数年単位の過去の出来事を記憶する遠隔記憶に分けることもあります)
また、記憶される情報の種類として、陳述記憶(言葉で表現できる記憶、意識的に想起して言葉で説明できるもの)、非陳述記憶(言葉で表現するのが難しい記憶で、意識的に想起することが難しいもの)に分類され、陳述記憶として意味記憶及びエピソード記憶、非陳述記憶として手続き記憶があります。
陳述記憶(意味記憶、エピソード記憶)、非陳述記憶(手続き記憶)はいずれも長期記憶です。短期記憶と似たワーキングメモリ(作業記憶)は、一時的に覚えておくというだけでなく、理解・学習・推論などの認知的課題の遂行中に情報を一時的に保持・操作する役割もあります。
記憶は、情報を学習して覚える「記銘」、覚えた情報を蓄える「保持」、情報を思い出す「想起」から構成されます。
大脳辺縁系にある海馬は、側頭葉の内側に位置し、新しい記憶の形成と保持に重要な役割を果たします。記憶は海馬で一時的に保持された(短期記憶)後、側頭葉などの大脳新皮質に送られて保存されます(長期記憶)。この海馬と側頭葉は陳述記憶に関与します。
想起に関わる記憶の検索や整理、思い出す作業には前頭前野が関与しています。
小脳は手続き記憶(自転車の乗り方など)に、扁桃体は感情と結びついた記憶に関与します。
前頭前野は作業記憶(ワーキングメモリ)にも深く関わり、情報を一時的に保持しながら処理する能力を支えます。
<思考>
思考、計画、判断、意思決定などの高次認知機能を担う中心的な領域は、前頭前野です。複雑な問題解決や論理的推論にも関与します。思考は、前頭前野を中心に、脳全体のネットワークが関与して行われます。
また、一時的に情報を保持しながら処理する能力をもつワーキングメモリは、暗算や文章の理解など、思考の土台となる機能です。前頭前野と頭頂葉が連携して働きます。
思考に関する脳の働きは、主に前頭前野を中心に、複数の脳領域が連携して行われます。
側頭葉は思考の材料となる言語や意味記憶(知識・語彙)を保持しており、頭頂葉は空間認識や注意の配分など空間的な情報処理に関与します。帯状回・扁桃体(いずれも大脳辺縁系の一部)は情動的な要素が思考に影響を与える場合に関与します。
<言語>
側頭葉のウェルニッケ野(感覚性言語野)が言語を理解し、前頭葉のブローカ野(運動性言語野)が言語を話す(発語)・書く(書字)ことに関わります。
脳は内分泌系の中枢として、ホルモンの分泌とその調節に重要な役割を果たしています。
間脳に位置する視床下部が、自律神経系と内分泌系の統合中枢です。
視床下部の神経分泌細胞がホルモン(放出ホルモンや抑制ホルモン)を分泌し、脳下垂体前葉における内分泌腺に作用するホルモン(成長ホルモン、甲状腺刺激ホルモン、副腎皮質刺激ホルモン、卵胞刺激ホルモン、黄体形成ホルモン、プロラクチン)の分泌をコントロールします。
後葉からは子宮収縮に関与するオキシトシン、抗利尿ホルモンであるバソプレシン(腎臓での水分再吸収を促進)が分泌されます。
ホルモンの濃度が一定に保たれるよう、負のフィードバック機構によって視床下部や下垂体の働きが調整され、ホルモンの「司令塔」として全身の内分泌バランスを保つ役割を担っています。
◇脳の可塑性
ニューロン同士の繋がり方においては、シナプスの形成や消失、結合の強弱の変化といった細胞レベルの変化があり、「シナプスの可塑性」と呼ばれ、学習や記憶に繋がっていると考えられています。
これに対し、「脳の可塑性」とは、シナプスの結合変化が個々のレベルに留まらず、経験や学習、環境の変化に応じて脳の構造や機能が変化する性質を指します。この仕組みにより、記憶の獲得や技能の習得、さらには脳の一部が損傷した際に別の領域が機能を代替する機能回復も可能になります。この脳の可塑性による機能回復は高度な機能をもつ脳のフェイルセーフとも言えるかもしれません。
可塑性が特に高いとされる脳の部位としては、主に以下が挙げられます。
こうして脳の高次機能は実現・維持されているのです。
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2026年7月10日
吉田 亜登美