
身体のいろいろな機能の中心にあるともいえる「脳」。脳にはおよそ1000億のニューロンがあり、相互にネットワークを形成して司令塔の役割を担っていて、脊髄とともに中枢神経系を構成しています。そして脳の活動を支える栄養等を供給するために大量の血液が必要となります。
今回はこの「脳」の神経系と循環系についてみてみましょう。
神経系は、神経細胞(ニューロン)とグリア細胞(神経膠細胞)から構成されます。ニューロンは神経伝達を担い、グリア細胞はニューロンの支持・保護や栄養調節、免疫など、神経系の機能維持に寄与しています。
中枢神経系におけるグリア細胞としては、アストロサイト、オリゴデンドロサイト、ミクログリアなどがあります。
脳神経とは、脳、主に脳幹から出て頭頂部の運動や感覚、自律神経(副交感神経)を司る末梢神経です。
脳神経は左右に12本ずつ(つまり12対)あり、うち10対は脳幹(中脳、橋、延髄)にある脳神経核(脳神経の神経細胞体が集まった部分)に末端があります。脳神経核は脳神経と大脳の中継点で、脳神経核に出入りする神経束が脳神経です。
「嗅神経」は感覚器から大脳に、「視神経」は感覚器から間脳に繋がっています。
嗅神経は匂いを感じる機能を担います。鼻腔にある嗅細胞で匂いを受容し、嗅細胞の軸索が頭蓋内の嗅球に入ります。その線維はシナプスを形成して嗅索(線維)となり、側頭葉に達します。
視神経は視覚を司ります。眼球の網膜からの情報は、視神経を通って間脳にある視床の外側膝状体に入ります。外側膝状体から視放線となって一次視覚野である後頭葉に伝えられます。
視神経は視交叉で交叉して対側の脳に情報を伝えます。このため、右視野の情報は左脳に、左視野の情報は右脳に伝わります。
中脳から出る「動眼神経」と「滑車神経」、それに橋から出る「外転神経」は協調して眼球運動を司っています。これらの神経が眼球運動をコントロールする複数の筋(外眼筋)を動かしていますので、各神経に麻痺が起こると、対応する眼球運動障害が起こります。
光に対する瞳孔収縮の対光反射では、視神経から入ってきた情報に対して動眼神経(副交感神経成分)が縮瞳させます。
近くのものを見るときに起こる調節・輻輳反射においては、縮瞳と水晶体の厚みを増す調節反射では動眼神経(副交感神経成分)、両眼を内転させる輻輳反射では動眼神経(運動神経成分)が支配しています。
橋から出る「三叉神経」は、文字通り3本の枝に分かれます。
第1枝の眼神経は眼窩及び頭頂から鼻にかけての感覚(温痛覚や触覚など)を、第2枝の上顎神経は上顎から頬部の感覚を司っています。第3枝の下顎神経は、下顎から側頭部及び舌(前2/3)の感覚と、咀嚼筋の運動を司っています。
同じく橋から出る「顔面神経」は、表情筋などの運動を司るほか、味覚(舌の前2/3)や涙・唾液の分泌などの機能も持っています。
「内耳神経」は、聴覚に関係する蝸牛神経と、平衡感覚に関係する前庭神経からなっています。
延髄からは、舌咽神経、迷走神経、副神経、舌下神経が出ています。
「舌咽神経」は舌(後1/3)の味覚・温痛覚・触覚を司り、迷走神経とともに咽頭の運動・感覚を支配し、唾液の分泌も司ります。
「迷走神経」は胸腹部の臓器に広く分布する副交感神経であり、また咽頭・喉頭の筋の運動、咽頭から胸腹部内臓の感覚を司っています。
「舌下神経」は舌の運動を司っています。
「副神経」は、頭を反対側に向ける胸鎖乳突筋と肩の上下運動を行う僧帽筋を支配しています。
脳血管は、脳に酸素や栄養を供給するために非常に重要です。脳は全身のエネルギー及び酸素の約20%を消費しますが、酸素や栄養を貯蔵する能力がないため、常に血液から供給される必要があります。脳の血流量は心拍出量の約15%を占めます。
脳血流が低下すると、脳組織が酸素・栄養不足になり、軽度では集中力の低下やめまい、中程度では判断力・思考力の低下や痺れ、重度だと意識障害や運動麻痺、慢性化すると認知機能の低下といった様々な影響が出ます。
脳血管は、酸素と栄養を脳に供給する動脈と二酸化炭素と老廃物を排出する静脈に分かれています。
<脳動脈>
内頸動脈系は、頸動脈から分岐する左右2本の内頸動脈が前大脳動脈や中大脳動脈に繋がり、脳の前方循環を担当します。
椎骨動脈系は、鎖骨下動脈から分岐する左右2本の椎骨動脈が脳底動脈を経て後大脳動脈に繋がり、脳の後方循環を担当します。
ウィリス動脈輪は、内頸動脈系と椎骨動脈系が脳底部で連結する部分で、脳全体に血液を供給するネットワークを形成し、血液循環を調整する役割を担っています。
<脳静脈>
脳の表面を流れる表在静脈と脳の中心部を流れる深部静脈の静脈血は、硬膜静脈洞に集まり、更に内頸静脈から心臓へ戻ります。静脈洞は硬膜組織に囲まれており、頭蓋骨内を走行します。
◇ 血液脳関門
脳の毛細血管には、血液中から脳組織への物質移動を制限する仕組みがあり、これを血液脳関門(blood-brain barrier:BBB)と言います。
これは、脳や脊髄といった中枢神経系では内部環境を一定に保つ必要があるためで、酸素・二酸化炭素、電解質(イオン)、脂溶性物質、特異的な運搬分子に結合したグルコースやアミノ酸等だけが選択的に通過することができます。これにより、細菌・ウイルスや有害物質・不要物質の脳への侵入を防いでいますが、一方で脳疾患に対する治療薬が脳に到達する際の障壁になっていてDDS(ドラッグデリバリーシステム)等の工夫が必要です。
脳以外の毛細血管の大半では、多くの物質が通過可能な血管壁構造になっています。
◇ ニューラルネットワークと人工知能
ニューラルネットワークやその元となったパーセプトロンは、人間の脳の神経系に着想を得た数理モデルです。脳では無数のニューロンが結合し、電気信号の強弱によって情報を処理していますが、パーセプトロンはその仕組みを単純化し、受け取った入力の重み付け和から活性化関数を通して出力としています。ニューラルネットワークはこのパーセプトロンを組合せ、非線形問題も解ける活性化関数を導入しています。ディープラーニングはニューラルネットワークを多層化した進化版です。このモデル化された神経細胞(人工ニューロン)が今日の人工知能(AI)技術の発展に繋がっているのです。
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2026年6月10日
吉田 亜登美