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Column

「病める神経」の話

「医薬」よもやまばなし

2026年04月10日

身体の中で情報伝達を担う神経は重要なものですが、外傷、感染症、腫瘍以外にも、固有の病気があります。
今回はこの「神経系」の病気についてみてみましょう。 

脊髄の障害

脊髄疾患とは、脊髄の障害により、運動障害・感覚障害・自律神経障害を呈する疾患の総称です。脊髄は中枢神経系ですので、その障害によって対応する末梢神経との伝送路が影響を受けて様々な障害が起こります。
脊髄疾患には、脊髄内病変によるものと、脊髄外病変によるものがあります。疾患によって出現しやすい症状に傾向があります。

脊髄外病変としては、脊柱管狭窄症や椎間板ヘルニアなどによる圧迫と、外傷があります。脊髄に障害が起こると、障害より下位(脳から遠い方)に運動障害等が起こることが多いとされます。
ちなみに、「脊椎損傷」は脊椎(背骨)の骨折や脱臼、「脊髄損傷」は神経の損傷です。

脊髄内病変としては、血管障害、腫瘍、髄液障害、炎症、感染症などがあります。

脊髄梗塞は、脊髄に栄養を供給する動脈が閉塞し、血流が途絶えることで、脊髄の一部が壊死する疾患です。突然の背中の痛み、手足の麻痺、感覚障害、膀胱や直腸の機能障害を引き起こします。主な原因としては、動脈硬化、大動脈解離、血栓などが挙げられます。確立された治療法はなく、血流を改善する薬物療法やリハビリテーションが行われます。

脊髄空洞症は、脊髄の中に髄液が溜まった空洞が形成される疾患です。この空洞が脊髄を内側から圧迫することで、感覚障害、しびれや脱力、筋萎縮といった運動障害、発汗異常や立ち眩み等の自律神経障害が引き起こされます。

多発性硬化症は、中枢神経系において神経を覆う髄鞘が破壊される「脱髄」が起こり、神経伝達が妨げられます。脊髄においてこの病変が起こると、脱力・筋力低下・痺れ、有痛性強直性けいれん、排尿障害といった症状を呈します。

末梢神経障害

末梢神経障害は、末梢神経の異常に起因する運動神経・感覚神経及び自律神経の障害の総称で、「ニューロパチー」とも呼ばれます。代表的な症状は以下です。

  • 運動神経の障害・・運動麻痺:筋力低下、筋萎縮
  • 感覚神経の障害・・感覚障害:手足のしびれ感、感覚麻痺
  • 自律神経の障害・・自律神経障害:発汗障害、血流障害、栄養障害、膀胱直腸障害、起立性低血圧

疾患によって強く出る障害は異なります。病変部位の病理学な相違としては、軸索障害型と髄鞘障害型に分けることができます。
糖尿病やビタミン欠乏、免疫・自己免疫の疾患、外傷・圧迫、感染症、薬剤性などの疾患が原因として挙げられます。

ギランバレー症候群は、免疫・炎症性ニューロパチーの代表的な疾患で、急性の運動麻痺が主な特徴です。自己免疫反応による髄鞘障害(脱髄)が病因と考えられてきましたが、軸索障害の病型もあることがわかってきています。多くは自然回復するものの、重篤化する場合もあり、年齢・性別を問わず発症します。

自律神経障害をきたす疾患

自律神経障害をきたす疾患としては、糖尿病等の代謝性疾患、ニューロパチーやパーキンソン病・認知症等の神経・自己免疫疾患、外傷や脊髄損傷等、多岐に渡ります。

「自律神経失調症」は特定の疾患名ではなく、交感神経と副交感神経のバランスが崩れ、全身にさまざまな不調が現れる状態を指します。医学的には原因が特定できない場合に使われることが多く、自律神経の機能不全が疑われるものの特定の病気とは言えない状態です。原因としては、ストレス、環境の変化、生活リズムの乱れ、ホルモン変動などが挙げられます。

運動ニューロンにおける神経変性疾患

神経変性疾患とは、血管障害、感染・中毒などの誘因が明らかでないにもかかわらず、神経細胞が侵されていく病気の総称です。
神経変性疾患の中で、運動ニューロンの変性による疾患としては、以下が挙げられます。尚、上位運動ニューロンは大脳皮質や脳幹から脊髄まで、下位運動ニューロンは脊髄から筋肉まで信号を送る神経細胞です。上位運動ニューロンの障害は中枢性麻痺、下位運動ニューロンの障害は末梢性麻痺を引き起こします。

  • 筋萎縮性側索硬化症(ALS):上位・下位運動ニューロンの変性
  • 原発性側索硬化症(PLS):上位運動ニューロンの変性
  • 脊髄性筋萎縮症(SMA):下位運動ニューロンの変性
  • 球脊髄性筋萎縮症(BSMA):下位運動ニューロンの変性

筋萎縮性側索硬化症(ALS)は、徐々に全身の筋肉の萎縮が進行する難病です。運動機能のみが障害を受け、感覚系及び自律神経系は障害を受けません。
全身の筋力低下や筋萎縮、嚥下障害、構音障害(はっきり話すことができない)といった症状が見られ、進行すると、四肢が動かせず自発呼吸ができない状態に至ります。平均生存期間は発症後3~5年とされます。
しかしながら、宇宙物理学者スティーブン・ホーキング博士は、学生時に発症して余命2年と宣告されますが、以後50年以上生存して、研究を続けました。

ALSは神経伝達物質のグルタミン酸による過剰興奮やフリーラジカルの酸化作用による細胞障害が原因で起こるとされており、グルタミン酸に対する阻害作用を持つリルゾールやフリーラジカル消去作用をもつエダラボンなどがALSの進行を遅らせる薬として承認されています。
またALSの一部では、体内で活性酸素を除去する酵素スーパーオキシドジスムターゼ1(SOD1)をコードする遺伝子の突然変異によって、運動ニューロンに有害なタンパクが生成されます。これに対し、SOD1遺伝子変異を有するALS患者を対象とした核酸医薬(アンチセンスオリゴヌクレオチド)であるクアルソディ(トフェルセン)が承認されています。

原発性側索硬化症(PLS)は、大脳から脊髄にわたる運動神経である上位運動ニューロンが障害されることで発症する難病です。下位運動ニューロンは障害されていないので、筋萎縮や呼吸筋の麻痺は少ない傾向があります。

脊髄性筋萎縮症(SMA)は、遺伝的要因により脊髄等の運動神経細胞(運動ニューロン)が変性・脱落することで、筋収縮刺激がうまく伝達できなくなる難病です。原因としては、5番染色体にある運動神経細胞生存(SMN)遺伝子の変異によると考えられています。SMN遺伝子(SMN1遺伝子)の機能欠損により、正常なSMNタンパクが合成されず、また副経路のSMN2遺伝子の約90%に変異があるために活性のない異常SMNタンパクが合成されてしまいます。

核酸医薬であるスピンラザ(ヌシネルセン)は、SMN2遺伝子に対してタンパクが生成される過程のmRNA前駆体に結合することで正常なタンパクが合成され、運動神経のはたらきが維持されます。
遺伝子治療薬であるゾルゲンスマは、正常なSMN1遺伝子を投与することで、正常なSMNタンパク質が産生されていきます。

球脊髄性筋萎縮症(BSMA)は、男性に発症する遺伝性の難病で、四肢の筋力低下及び筋萎縮、球麻痺(延髄の運動神経核が障害されることで発生する口、舌、喉の運動障害によって起こる症状、延髄が球状であることに由来)が主症状です。




◇ 肩こり
ストレス等による筋肉の緊張や過度の負荷によって筋肉が硬く強張り、血管を圧迫して血行が悪くなります。血行が悪くなると末梢神経への酸素や栄養供給が滞り、神経の働きが低下します。
末梢神経が障害を受けると、その個所から情報が電気信号として感覚神経を伝わって大脳皮質へ届けられ、痛み・コリ・しびれの感覚が生じます。
筋肉疲労と血行不良、末梢神経の障害が関連して、肩こりを引き起こします。





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2026年4月10日
吉田 亜登美