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Column

関節の話

「医薬」よもやまばなし

2025年12月10日

骨は体を支え、運動を担い、脳や臓器を保護する役割を担っています。その運動機能は、複数の骨を連結する関節によって多様な動作が可能になっています。
今回は体中に約260ヶ所もあるという「関節」についてみてみましょう。 

関節の種類

関節とは、二つ以上の骨が連結する部位を指します。

関節には可動関節と不動関節があります。
不動関節は、骨と骨の間が結合組織によって強固に連結され、可動性がほとんどないものを言います。頭蓋骨のつなぎ目などがこれにあたります。

一般的な関節(可動関節)は可動性を保持し、関節可動域の範囲内で関節運動を行うことができます。
主な関節運動として、屈曲・伸展(曲げ伸ばし)、内転・外転(身体の中心に近づける・遠ざける)、内旋・外旋(骨の長軸を軸にした旋回)があります。

全身骨格で代表的な関節としては、顎関節、肩関節、肘関節、手関節、手指関節、股関節、膝関節、足関節、足趾関節が挙げられます。

関節は、関節頭(関節面が凸状になった部分)・関節窩(関節面が凹状になった部分)の形状や働きによって、以下に分類されます。

  • 球関節:関節頭が球状になっていて、球状の中心部を軸に多方向に回転する多軸性の関節。肩関節や股関節がこの球関節で、球状の関節が対側の関節窩の中を回転することで、あらゆる方向に可動域を持つ。
  • 楕円関節:関節頭が卵のように楕円になっていて、前後左右に動く二軸性の関節。橈骨手根関節(手首の関節)などがある。
  • 鞍関節:対向する関節面が鞍と馬の背のような双曲面をもち、互いに直交する方向に向き合い、二軸を中心にして回転運動行う関節。母指の手根中手関節(親指の付け根の関節)や胸鎖関節(鎖骨の胸骨端と胸骨の鎖骨切痕との間の関節)に存在する。
  • 蝶番関節:関節頭が円柱状になっていて、一方向だけに回転運動するという蝶つがいのような働きをする一軸性の関節。肘関節(腕尺関節)や膝関節、肘の関節や指の第一関節などがある。円柱の底面の大きさの異なる足首の関節のような螺旋関節は蝶番関節の変形。
  • 車軸関節:関節頭の周囲に環状に関節面があり、関節窩の中で関節頭がその中心軸を中心に車軸のように回転する一軸性の関節。肘の関節近くにある上橈尺関節と手首近くの下橈尺関節(前腕を構成して並行する橈骨と尺骨の両端)がこれにあたる。
  • 平面関節:両方の関節面が平面で、運動軸がなく、関節可動域も狭い。背骨を構成する椎間関節や足根間関節が平面関節。

可動関節の構造

骨は硬質なため、直接接するのではなく、可動するための基本構造を持っています。
関節部分は、関節包で覆われることで袋状の閉鎖空間を形成します。関節包は二層の膜からなり、外側の線維膜は結合組織でできた丈夫な膜、内側の滑膜は潤滑油の役割をする関節液を分泌する血管の多い結合組織の膜です。
関節包内部の空間である関節腔は関節液(滑液)で満たされています。
関節部分の骨の表面は、関節軟骨で覆われています。軟骨には神経や血管はなく、軟骨細胞と軟骨基質から構成されます。軟骨基質としては、有機成分であるⅡ型コラーゲンやプロテオグリカン、無機成分及び水分があります。関節軟骨の役割は、関節液と共同で、骨を保護し、関節に関わる衝撃を吸収し、滑らかに関節を動かすことにあります。関節液はこうした緩衝・潤滑の役割に加え、関節軟骨への栄養供給や、老廃物等の物質交換を補助する役割があります。

こうした基本構造に加えて、一部の可動関節では補助構造を持つものがあります。
靱帯は、骨と骨をつなぐ帯状の結合組織で、関節の外側にあって関節を挟む両骨に結合しており、関節包の補強、安定性の向上、運動の円滑化、過度な運動の抑制の役割を持ちます。
関節内にあるものとしては、肩関節や股関節等にある関節唇(関節窩の周囲にある軟骨)、膝関節等にある関節半月(半月板:C字型の軟骨)、顎関節や手関節等にある関節円板(関節腔を分ける軟骨板)があります。
関節に障害が出ると、可動域に制限が出て、痛みを伴うことも多くなります。

関節の外傷

関節における代表的な外傷として、脱臼が挙げられます。

脱臼というのは、関節を構成する骨の関節面が正常な位置関係から逸脱して、完全に接触を失った状態を言います。関節面が一部接触を保った状態は亜脱臼として区別します。いずれも関節を支持する関節包や靱帯等の組織に損傷をきたします。ちなみに捻挫は、関節支持組織の損傷はあるものの、関節面の位置関係に乱れのないものを指します。
外傷性脱臼は、転倒や事故、スポーツなどで強い外力を受けたことが原因で起こり、主な部位としては肩関節、肘関節、肩鎖関節(鎖骨と肩甲骨の間の関節)、手指関節が多くなっています。

特に肩関節(肩甲上腕関節)は、肩甲骨が関節窩(関節のくぼみ)に上腕骨頭が嵌る球関節で、人体で最も可動域が大きいのですが、関節窩が浅いために安定性に乏しく、脱臼しやすい箇所になっています(脱臼の中で最多)。

関節の疾患

特に加齢に伴って起きる代表的なものをいくつか挙げてみます。

<変形性関節症>
特定の外圧等を受けなくても、加齢などによって関節の機能障害をきたす疾患に、変形性関節症があります。

関節軟骨は関節における衝撃吸収性と潤滑な運動性を担っていますが、この関節軟骨の変性・摩耗に起因して、骨の増殖変化や滑膜の炎症が起こり、疼痛、腫脹、可動域制限、関節変形の症状に繋がるものが、変形性関節症です。
主な発症部位としては、膝関節(変形性膝関節症)、股関節(変形性股関節症)が好発部位です。

治療としては、疼痛軽減や病期進行予防を目的とした保存療法が第一選択肢になります。運動療法や関節の動きを制御する装具療法、そして薬物療法があります。
薬物療法としては、鎮痛剤の他、ヒアルロン酸やステロイドの関節内注射があります。血小板から分泌される成長因子を利用して組織修復を促進するPRP(多⾎⼩板⾎漿)療法や、自家培養軟骨移植といった再生医療も実用化されています。
病期が進行すると、手術療法を選択することになります。術式としては、損傷部の除去や骨の一部を切除する関節温存術と人工関節置換術があります。

<関節リウマチ>
内因性の病気としては、関節リウマチが挙げられます。
これは自己免疫反応による関節炎です。関節の滑膜に炎症が起こって、関節の腫れ、痛みの症状が出て、進行すると関節可動域の制限、そして関節の変形や破壊に繋がります。
薬物療法としては、メトトレキサートのような従来型の抗リウマチ薬に加え、TNF阻害薬やIL-6受容体阻害薬といった抗炎症作用を持つ薬剤、分子標的約のJAK阻害薬が治療薬として使われます。


関節痛という症状の場合、変形性関節症のように関節自体に異常が原因の場合もありますが、関節を支える周囲の筋の炎症・拘縮に起因することがあるので、留意が必要です。



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2025年12月10日
吉田 亜登美