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株式会社日立医薬情報ソリューションズ

Column

「骨のある」話

「医薬」よもやまばなし

2025年11月10日

「骨のある人」というと、自分の信念をどこまでも貫こうとする強い心、気概を持った人を指します。骨は体の根幹をなす重要なものです。
ヒトの骨格は成人で概ね200個程度の骨から構成されています。今回はこの「骨」についてみてみましょう。 

骨の役割

骨は体を支え、運動を担い、脳や臓器を保護する役割を担っています。
支持機能としては、体を支えて人体の形を保持します。
運動機能としては、骨は筋肉と連携して運動を可能にします。関節を通じて骨が動くことで、様々な動作が可能になります。
保護機能としては、頭蓋骨は脳、肋骨は心臓や肺、脊柱(いわゆる背骨)を構成する椎骨は脊髄というように、重要な臓器を外部の衝撃から保護しています。

また、骨はカルシウムやリンなどのミネラルを貯蔵し、必要に応じて体内に供給するという、貯蔵機能も果たします。
そして、骨髄で血液細胞をつくるという造血機能も持っています。骨髄にある造血幹細胞が、血液(血球成分)を構成する赤血球や白血球、血小板に分化することで、血液がつくられます。血球の細胞には寿命があるので、造血組織から血液を供給する必要があります。尚、白血球は免疫を司る多様な免疫細胞の集団なので、免疫機能にとっても骨は重要と言えます。

骨はホルモンの分泌もしています。オステオカルシンは骨芽細胞から分泌されるホルモンで、血糖値の調整や脂肪代謝、筋力維持などに関与しています(記憶力の向上や生殖機能の維持にも役立つとされています)。オステオポンチンは骨の代謝時に分泌され、カルシウムとコラーゲンを結合して骨を形成する役割があり、免疫機能の活性化や傷の治癒にも関与しています。

骨の種類

骨は、その形態によって以下に分類されます。

  • 長骨・・長い円管状で、体の支持、移動や運動に役立つ。四肢の骨(上腕骨、大腿骨など)がこれにあたる。縦軸(長軸)方向に強く、横方向には弱い。
  • 短骨・・短小で球形や多面体の形をしており、数個の骨が集まって強く弾性のある骨格を構成する。手首の手根骨や足首の足根骨など。小さい骨がいくつか組み合わさることによって、手首や足首の関節面にかかる負担(衝撃)を分散している。
  • 扁平骨・・薄い板状で、内腔を囲んで保護する。頭頂骨・前頭骨・胸骨・肋骨・肩甲骨・腸骨など。
  • 種子骨・・小型で卵型をしていて、関節付近にあって、靭帯・腱の摩擦や脱臼を防ぐ役割を持つ。手の母指種子骨・足の母趾種子骨・膝蓋骨など。

その他、不規則骨(複雑な形をしていて、椎骨や尾骨、下顎骨など特有の形状をしている骨)、含気骨(副鼻腔を形成する上顎骨、中耳につながる乳突蜂巣と乳突洞を形成する側頭骨など、含気腔という空洞を形成する骨)があります。

骨の構造

基本構造としては、内層の海綿骨、外層の皮質骨(緻密骨)で構成されています。
海綿骨はスポンジのように多孔で、空間を支える網目状の骨梁があり、軽量化しつつ強度を保っています。
皮質骨には、骨組織の中に血管・リンパ管・神経の通るハバース管、ハバース管を繋ぐフォルクマン管があります。

骨組織の構成成分としては、骨芽細胞・骨細胞・破骨細胞から成る細胞成分と、有機成分・無機成分・細胞外水分という細胞外基質(骨基質)があります。
細胞外基質のうち、有機成分としては、コラーゲン(90%以上)とプロテオグリカンがあります。コラーゲン分子が凝集して線維構造を形成し、水分保持能を持つプロテオグリカンが入り込むことで、強靭な骨のフレームができます。
無機成分はカルシウムとリンから成り、ハイドロキシアパタイトという結晶構造をとっています。

そして骨膜が骨全体を包んでいます。

長骨や扁平骨の一部(腸骨や胸骨)、不規則骨の一部(椎骨)などにはさらに内側に髄腔という空洞があり、中には骨髄が入っています。

骨の成長と代謝

胎生期から成長期にかけて、体の形成・成長に従って、骨も形成・成長していきますが、成長を終えた後も、新陳代謝が行われています。この新陳代謝を骨のリモデリング(再構築)と言います。
骨質の劣化などを感知して、破骨細胞が骨基質の分解・吸収を行い(骨吸収)、骨芽細胞が骨基質を産生・分泌して石灰化していき、更に骨基質の中で骨芽細胞が骨細胞に分化します(骨形成)。

成長過程では、骨吸収と骨形成が連携して行われ、骨が一定の形を保持しつつ成長します(モデリング)。

骨代謝に関わる因子として、ビタミンDは骨形成に重要です。またホルモンでは、副甲状腺ホルモンは骨吸収を促進(但し、間欠投与すると骨形成促進)、甲状腺から分泌されるカルシトニンや卵巣から分泌されるエストロゲンは骨吸収を抑制します。

骨密度と骨強度

骨の細胞外基質の有機成分と無機成分の質量の和を骨量といいます。また、骨塩量は、骨に含まれるカルシウムやリンなどの無機成分の量(ミネラル量)を指します。そして、骨密度は、骨の単位面積(または単位体積)あたりに含まれているミネラル量を指します。

骨量は成長期に急激に増加し、その後、青壮年期は定常状態が維持されます。更年期以降、加齢とともに減少します。特に女性の場合は、閉経(エストロゲンの減少)により更年期前後に急激な骨量減少があり、その後、加齢とともに減少していきます。

骨強度は骨密度と骨質に依存します。
骨密度は、骨基質の正常な石灰化と、骨吸収と骨形成のバランスが保たれることによって維持されます。
骨質は、骨の材質や微細構造、リモデリング速度等に依ります。

外傷と病気

骨の外傷(怪我)で典型的なものは骨折です。
骨折には、正常な骨に強い外力が加わって生じる外傷性骨折、腫瘍や骨粗鬆症などに伴う骨強度の低下により軽微な外力で生じる病的骨折、健常な骨の同一部位に比較的小さな外力が繰り返しかかることで生じる疲労骨折があります。

骨の病気には、腫瘍や感染症などもありますが、加齢とともに留意すべきは骨粗鬆症です。
骨粗鬆症では、体内のカルシウム不足などにより、「骨吸収>骨形成」となって、骨量・骨密度が低下し、骨質も劣化します。骨がスカスカになって、少しの衝撃で骨折しやすくなってしまいます。治療としては、食事療法と運動療法を基本として薬物療法を行います。薬物療法としては、破骨細胞に作用する骨吸収抑制薬、骨芽細胞に作用する骨形成促進薬、腸からのカルシウム吸収を促進する等の骨代謝調整薬が用いられます。



◇ Marfan症候群

全身骨格に異常をきたす骨系統疾患の一つにマルファン症候群があります。マルファン症候群は、常染色体優性遺伝の先天性異常症で、骨格、眼、心血管系に異常をきたします。
眼科的異常は水晶体偏位、心血管系病変では上行大動脈拡張による大動脈解離・破裂などを起こすことがあります。
骨格系においては、やせ型・高身長、長い四肢、長い指(クモ状指)といった特徴が見られます。
音楽家では、ニコロ・パガニーニ(バイオリニスト/作曲家)とセルゲイ・ラフマニノフ(ピアニスト/作曲家)はマルファン症候群だったのではないかと言われています。両者とも長く細くしなやかな指が超絶技巧の演奏を可能にしたとも考えられています。奇しくも、ラフマニノフによる『パガニーニの主題による狂詩曲(ラプソディ)』という名曲があります。



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2025年11月10日
吉田 亜登美