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株式会社日立医薬情報ソリューションズ

Column

加齢と老化

「医薬」よもやまばなし

2025年06月10日

昨今、「人生100年時代」とも言われるようになっています。寿命は延びているし、若返ってもいるのですが、それでも個人差はあるにせよ、年齢とともに老化は確実に進みます。
前回は細胞の観点で老化をみましたが、今回は少し視点を変えて、加齢と老化についてみてみましょう。

高齢化の進む社会

「高齢者」はWHO(世界保健機関)や先進国では65歳以上と定義されています。日本の総人口に占める 65 歳以上の人口割合は1950年の4.9%以降上昇を続けており、2024年時点で29.3%。まさに「超高齢社会」です。
  *高齢者の人口割合(高齢化率)・・7%を超えたら「高齢化社会」、14%超を「高齢社会」、
   21%超を「超高齢社会」とWHO及び国連で定義しています。

平均寿命は延びていて、2023年の日本人の平均寿命は男性81.09歳、女性87.14歳です。19世紀初頭は40歳程度、1950年では男性58.0歳、女性61.5歳なので、その差はかなり大きくなっています。
世界の平均寿命としてみても、概ね30歳程度から19世紀以降延び始め、過去100年程度で急激に延び、現在では70歳超になっています。この寿命延伸には、衛生環境の向上や医学の発展が大きく貢献しています。

寿命を決める因子としては、遺伝的要因を中心とする内因性のものと、外部環境等の外因性のものがあり、後天的な要因が寿命に影響しているということです。
遺伝的背景が同じでも、その発現はエピゲノムによって同じとは限らず、寿命は変わります。またDNAの傷や、生活環境や生活習慣、ストレス・幸福度といった後天的要因も老化・寿命を左右します。

ヒトの身体について、現時点では最大寿命(ポテンシャル)は概ね120歳くらいではないかとされています。

健康寿命

単に寿命の延びだけでなく、体力的に若返ってもいます。例えば高齢者の歩行速度でみると、四半世紀で女性20歳、男性10歳若返っているというデータがあります。
また、健康状態や知的能力においても、こうした若返りの傾向が見られます。

寿命が長くなるのはよいですが、健康で過ごせることがより重要になります。単に長生きというのではなく、QOL(生活の質)が問題です。より健康に長生きというのが望まれます。

健康寿命とは、「健康上の問題で日常生活が制限されることなく生活できる期間」のことをいいます。2022年の健康寿命は男性72.57歳、女性75.45歳となっています。

平均寿命と同様、健康寿命も延びていますが、平均寿命と健康寿命の差は健康でない期間ということになります。2022年のデータでは、男性では8.49年、女性では11.63年です。

要介護生活となる可能性のある期間が10年前後ある訳ですが、個人のためにも社会のためにも、健康寿命と平均寿命との差を縮小することが重要です。寿命が延びても、健康に生活できないのでは支障があるので、健康寿命の延伸は重要です。

フレイル・サルコペニア・ロコモティブシンドローム

長くなる寿命に対して、健康で過ごせることを妨げるものがあります。

フレイルとは、加齢によって身体機能や認知・精神機能が低下する現象です。年齢を重ねていくと、心身や社会性などの面で機能やダメージを受けたときの回復力が低下し、これによって健康に過ごせていた状態から、生活を送るために支援を受けなければならない要介護状態に変化していきます。フレイルは、健康な状態と要介護状態の中間の段階を指し、一症状ではなく、衰え全般と捉えます。
フレイルには、「身体的フレイル」「精神・心理的フレイル」「社会的フレイル」に分かれます。

身体的フレイルは、運動機能や臓器機能といった身体機能の低下です。
精神・心理的フレイルは、環境変化等で引き起こされる、うつ状態や軽度の認知障害の状態などを指します。
社会的フレイルは、加齢に伴って社会との繋がりが希薄化することで生じる、独居・孤立や経済的困窮の状態などをいいます。

これら3つのフレイルが連鎖していくことで、老い(自立度の低下)は急速に進みます。
一方で、フレイルには「可逆性」という特性もあります。つまり、進行を緩やかにしたり、健康に過ごせていた状態に戻したりということも可能ということです。

身体的フレイルのうち、噛む・飲み込む・話すといった口腔機能の低下を「オーラルフレイル」、眼の形態・構造的変化や機能変化による視機能の低下を「アイフレイル」、聴覚機能の低下を「ヒアリングフレイル」と呼んでいます。

身体的フレイルの一つに、筋肉(骨格筋)が衰える「サルコペニア」があります。
高齢期になると、自然と筋肉量は減少し、筋力は低下していきます。筋肉合成に男性ホルモンが関わっていて、加齢に伴ってホルモン量が減少するのに従い、筋肉量が減少します。これはもともと筋肉量の多い男性で大きく、部位的には特に下肢の減少が顕著とされます。
また筋肉に脂肪細胞が入り込んできて筋肉の質も低下するようです。
サルコペニアによって、躓き、転倒、骨折といったリスクや、生活動作や歩行などに支障が生じます。筋肉量の減少は基礎代謝(生命維持に必要な最低限のエネルギー)の低下に繋がります。

また、筋肉や骨、関節、椎間板などの運動器の障害のために立ったり歩いたりするための身体能力(移動機能)が低下した状態を「ロコモティブシンドローム」といいます。特定の疾患を指すものではありませんが、生活習慣病と相互に関係している可能性が高いとされます。ロコモによる運動不足が生活習慣病を悪化させる、あるいは、重度な生活習慣病に起因する身体活動の低下がロコモを悪化させるといったように、双方向に影響しあって全身の機能低下を引き起こしていることも少なくないようです。



◇ 老化症

自然な老いとは異なり、老化の状態を示す病気があります。

早老症(早期老化症)は、老化が加速しているように思われる疾患の総称です。
早老症は、体細胞分裂の不全に伴う染色体異常に起因するタンパクの異常化が原因とされます。これは、細胞が分裂する際の染色体を複製する段階で異常が生じて、通常通りの細胞分裂が出来ず、異常なタンパクが形成されてしまうということです。

複数の疾患がありますが、遺伝子変異や先天性遺伝子異常によるもので、原因遺伝子も解ってきています。

ウェルナー症候群は、DNA修復の働きを持つWRNヘリカーゼに関連する遺伝子の異常によるもので、DNA修復機能の欠失により症状が進みます。常染色体劣性遺伝(両親から1つずつ受け継いだ遺伝子が2つとも異常である場合に発症)です。

ハッチンソン・ギルフォード(プロジェリア)症候群は、LMNA(ラミンA)遺伝子の変異が原因です。この遺伝子は細胞核の骨格となるタンパクを作るという働きがありますが、変異により、異常タンパク(プロジェリン)が作られて、細胞核の構造異常やクロマチン構造の変化を引き起こします。遺伝子異常が原因ですが、通常は遺伝しないとされます。



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2025年6月10日
吉田 亜登美