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株式会社日立医薬情報ソリューションズ

Column

続・細胞の不思議①-分化と新陳代謝

「医薬」よもやまばなし

2025年03月10日

ヒトの体には約200種類以上の細胞があると⾔われていますが、受精卵という一つの細胞を出発点にして、細胞分裂を繰り返していく過程で、体の一部を構成する細胞に専門化していきます。
またそれぞれの細胞には寿命があり、生体内では古い細胞から新しい細胞への入れ替わりによって機能や形態を一定に保っています。
今回は、この細胞の機能分化と新陳代謝について見ていきましょう。

細胞の分化と増殖

体を構成する細胞にはたくさんの種類があり、それぞれの細胞において基本構造は共通ではあるものの、独自の機能・役割をもっています。
受精卵という一つの細胞を出発点として細胞分裂を繰り返していく過程で、一定の機能や形を持つ様々な細胞に変化していきます。こうして細胞が専門化していくことを「分化」といいます。
細胞は未分化の状態から段階的に分化して身体の一部を構成する細胞になりますが、普通の細胞(体細胞)はいったん分化を終えると、改めて他の細胞に分化することはできません。
但し、分化が起きても、細胞核にある遺伝情報は変わらず、全ての細胞にその個体の全ての遺伝情報が格納されています。
種々の細胞に分化できるのは、遺伝情報のなかで活発に働く遺伝子の組合せが変化し、固定化されていくからです。

細胞は常に新しくつくられていますが、細胞分裂(体細胞分裂)によって増えます。DNAが複製され、細胞自体が2つに分離します。
細胞分裂は無限に繰り返すことができる訳ではなく、その分裂回数には上限があります。
DNAの末端にテロメアという領域があります。これはDNA本体を保護する役割を持ちますが、細胞分裂におけるDNA複製のたびに、テロメアは短くなっていきます。テロメアが極限まで短くなると、その細胞は分裂をやめてしまいます。
尚、生殖細胞における減数分裂では、染色体本数が分裂前の半分になります。

体内の細胞は全て分化したものかというと、そうではありません。
「幹細胞」は分化途中あるいは分化前の状態であって他の細胞に分化することができるもので、多分化能(複数の種類の細胞を作り出す能力)と自己複製能(多分化能を保持したまま増殖できる能力)を持っています。
幹細胞はテロメラーゼ(テロメア合成酵素)をもっているので、テロメアをある程度もとに戻すことができます。
そして、幹細胞からあらたな体細胞がつくられます。

細胞の新陳代謝

生体内では、古い細胞が死に、常に新しい細胞へと置き換わることで機能や形態を一定に保っています。細胞死と増殖のバランスによって恒常性は維持されている訳です。細胞の種類によって異なりますが、1日に2%程度入れ替わっているとされます。

最も寿命が短いのは胃や腸の表⾯にある上⽪細胞で、1⽇程度です。皮膚の細胞は約4週間で入れ替わり、⾎液中の⾚⾎球の寿命は約4ヶ⽉です。
骨も新陳代謝が活発です。まず骨を壊す働きをする破骨細胞が骨を吸収(骨吸収)し、骨を作る働きをする骨芽細胞が、破骨細胞によって吸収された部分に新しい骨を作る(骨形成)ことで骨細胞がリニューアルされます。骨細胞の寿命は数年単位です。
神経細胞や心筋細胞のように生涯更新されないものもあります。

新しい細胞は、細胞分裂、分化前の幹細胞が分化して供給されます。不要な細胞は細胞死によって排除されます。

細胞死

細胞死には、「アポトーシス(自死)」と「ネクローシス(壊死)」があります。

「アポトーシス」というのは、役割を終えた細胞や異常・有害な細胞を除去するための計画的(プログラムされた)細胞死です。

アポトーシスは種々の因子で誘発されますが、細胞応答は制御されています。細胞内成分の分解は、アポトーシス過程で活性化されるタンパク質分解酵素(プロテアーゼ)である複数のカスパーゼによって調節されています。
アポトーシスは、以下のプロセスで進みますが、炎症反応は起きません。

  • 細胞膜が構造変化を起こして細胞が丸くなり、急速に縮小して隣接する細胞から離れる。
  • 細胞核(クロマチン)が凝縮する。
  • DNAが短い単位〈ヌクレオソームに相当〉に切断され、断片化する。
  • 細胞が「アポトーシス小胞」とよぶ構造に分解する。
  • マクロファージや周辺細胞がアポトーシス小胞を貪食する。

これに対して、「ネクローシス」は細胞の損傷などで起こる、不可逆的な細胞傷害です。やけどや凍傷、化学薬品等による外部損傷、血管や神経細胞の損傷など種々の要因によって起こります。
細胞膜の選択的透過性が破綻して、細胞が膨潤して破裂し、細胞内容物が細胞外へ漏出します。これにより炎症反応が引き起こされて周辺細胞に波及します。

細胞死は生体の構造・機能を維持するために、古くなった細胞を新しい細胞に入れ換えたり、有害な細胞を排除したりするために必要な仕組みです。
細胞死、特にアポトーシスの異常は病気に関係します。アポトーシスの抑制はがんや自己免疫疾患等の原因に、過多はエイズ、劇症肝炎など様々な疾患の原因になると考えられています。

がん細胞は異常細胞ですので、がん化を抑制する遺伝子はアポトーシスを促して異常細胞を排除することで、がんの発症を防いでいます。アポトーシスが回避されるとがんになってしまいます。
アポトーシスを起こした細胞がマクロファージ等の貪食細胞により速やかに貪食・処理されずに放置されると、この細胞は破裂し、細胞内分子が放出され、これが自己免疫疾患を引き起すと考えられています。
エイズは、HIVウイルスがリンパ球にアポトーシスを引き起こすことで発症します。
劇症肝炎における肝細胞死はアポトーシスであることが示されています。

また、細胞内の不要な成分を分解するプロセスであるオートファジーが過剰に進行すると、細胞死を引き起こします。


◇ちょっと変わった細胞死

フェロトーシスは、細胞内自由鉄を触媒として細胞膜リン脂質の過酸化が進み、脂質ヒドロキシラジカルの蓄積によって引き起こされる細胞死です。抗酸化物質のグルタチオンが枯渇することで誘導されます。神経変性疾患や虚血再灌流による臓器障害、非アルコール性脂肪肝炎など、さまざまな疾病に関係することが明らかになっています。
エントーシスは、一つの細胞が隣接する細胞に取り込まれる(貪食される)ことによって起こる細胞死で、特にがん細胞で観察されます。
パイロトーシスは、炎症性の細胞死で、特に免疫細胞で見られます。
ネクロプトーシスは制御された形態のネクローシスで、アポトーシスが阻害された場合に活性化される細胞の自己破壊のプロセスです。心筋梗塞や脳梗塞などに関与しているとされます。
また、細胞膜が残ったまま中身がなくなるエレボーシス(暗黒の細胞死)についても研究が進められています。



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2025年3月10日
吉田 亜登美