ヒトの生体が生命を維持していくために、体内の環境を一定の状態に維持する機能が備わっています。
今回は、前回に引き続き、この恒常性維持(ホメオスタシス)について見ていきましょう。
体液の状態以外にも恒常性を維持しているものがあります。いくつか取り上げてみます。
<体温>
ヒトは恒温動物です。
体内では生命維持のために絶えず化学反応が行われていますが、ここで触媒として働く酵素の至適温度環境のため、体温を一定に保持する必要があります。
体温は、体内の化学反応の過程で発生する熱産生と、体外への熱放散のバランスで決まります。
外部環境の寒暖は皮膚にある温受容器及び冷受容器(真皮にある自由神経終末)が感知します。この情報は神経系を経由して大脳に伝わり、間脳の視床下部にある体温調節中枢から自律神経系や内分泌系に対して体温を正常域に戻すように指令が伝えられます。
体温が上昇する状況の場合には、皮膚の血管を拡張させて循環血液量を増加させ、体熱を体外に放散させたり、発汗を多くして気化熱で皮膚温を低下させたりします。また、内分泌系を介して、尿量やホルモン分泌の調節による熱放散の調節も行われます。
<酸素濃度>
細胞の活動には酸素が必要です。
体外から取り込んだ酸素は、肺から血液を介して細胞に運ばれます。
呼吸により外気から体内に酸素が取り込まれますが、体内の酸素量に応じた呼吸のコントロールは脳の延髄にある呼吸中枢によって行われます。
肺に入った空気は、気道から肺胞に入り、その周囲を取り巻く毛細血管において血液に酸素が送り込まれます(肺における酸素と二酸化炭素のガス交換)。この毛細血管は肺静脈に繋がっており、酸素を含んだ血液は心臓に送られ、心臓の拍動によって全身に行き渡ります。心臓は自律的に拍動しますが、延髄(脳幹の構成要素の一つ)の心臓血管中枢が自律神経系を介してコントロールしています。
酸素を必要とする場合には、呼吸が早くなり、脈拍が上がります。
また、肺にある酸素を血液中にどれだけ取り込んで体中に運ぶことができているかを表しているのが、パルスオキシメーターで測定される動脈血酸素飽和度(SpO2)です。
酸素の大部分は血液中のヘモグロビンと結合して全身に運搬されます。心臓から全身に血液を送り出す動脈の中を流れている赤血球に含まれるヘモグロビンのうち、酸素と結合したヘモグロビンが占めている割合(酸素飽和度)をみることで、酸素がどのくらい血液中に供給されているかを確認することができます。正常では96~99%、低くなると呼吸不全を起こします。
<血圧>
血圧は24時間のリズムで変動するものですが、生体はなるべく血圧が変動しないように制御しようとします。
一過性で血圧低下を感知すると、その信号は延髄へ送られます。延髄は交感神経を興奮させ、副腎髄質を刺激してアドレナリン・ノルアドレナリンを分泌させて、心臓の収縮力を高めて拍動を増やし、脳や心臓へ優先的に血液が流れるように末端の血管を収縮させます。
定常的な血圧維持には、アンジオテンシンやアルドステロン、バゾプレシンなどのホルモンが関わっています。
<血糖値>
血糖値は血液中のグルコース濃度を指します。空腹時血糖の正常値は70~110mg/dlとされ、この範囲で維持されているのが望ましいということになります。グルコースは水によく溶けるので、その量は血液の浸透圧を左右します。これは血液に接した細胞の水分量に影響するので、血糖量は厳密に調整される必要があります。
血糖値が上昇した場合、間脳の視床下部にある血糖調節中枢が感知し、副交感神経を通して膵臓にあるランゲルハンス島のβ細胞が刺激を受け、血糖値を下げるホルモンであるインスリンを分泌することにより、血糖量が低下します。
血糖値が低下すると、血糖調節中枢が興奮し、その興奮が交感神経と下垂体に伝わります。
交感神経の興奮は副腎髄質を刺激してアドレナリンを、ランゲルハンス島のα細胞を刺激してグルカゴンを分泌させます。アドレナリンとグルカゴンは蓄えられているグリコーゲンをグルコースに分解するよう肝臓に働きかけ、血糖量を増加させます。
肝臓グリコーゲンは、余剰のグルコースから合成されて貯蔵され、血糖を一定に保ちながら、血糖低下時における糖質の供給源としての役割を果たしています。
一方で、余剰のグルコースはアミノ酸や脂肪という形でも貯蔵されます。下垂体から分泌される副腎皮質刺激ホルモンによって、副腎皮質から糖質コルチコイドが産生され、肝臓においてアミノ酸や脂肪の分解物であるグリセロールなどからグルコースを合成する糖新生を促進することで、血糖値を上げます。
病気に罹患するというのは、体内で何らかの異常が起きており、恒常性維持が崩れた状態であるといえます。
ここでは恒常性維持の因子の病態についていくつか見てみます。
<体液>
「pH(酸-塩基平衡)」の観点では、体液のpHが酸性に傾いた状態を酸血症(アシデミア)、アルカリ性に傾いた状態をアルカリ血症(アルカレミア)と言います。
体液のpHの恒常性が崩れて酸性に向かう病態をアシドーシスと言い、呼吸の異常によって二酸化炭素が過剰となる呼吸性アシドーシス、それ以外の酸が過剰となる代謝性アシドーシスがあります。
逆に、体液のpHがアルカリ性に向かう病態をアルカローシスといい、過呼吸が原因で体液に溶け込んだ二酸化炭素が欠乏する呼吸性アルカローシス、それ以外が原因の代謝性アルカローシスがあります。
イオンバランスの観点では、低ナトリウム血症・高ナトリウム血症のように、多くても少なくても良くはありません。低ナトリウム血症は水の過剰摂取、高ナトリウム血症は脱水によっても起きますが、イオンバランスの異常は主に腎臓の機能異常によって引き起こされます。
これは、カリウム、カルシウム、マグネシウム、リンといった他のイオンについても同様です。
<体温>
熱中症は、体温調節機能が低下したり、体内外の変化に体温調節機能が対応しきれなくなったりして、体内に熱が蓄積することなどによって発症します。重症化すると、意識障害や、ひいては命の危険に繋がることがあるので軽視できません。
熱中症予防には涼しい環境や運動の抑制といった行動の他、脱水状態を防ぐための水分補給が挙げられます。水分補給の際、水だけを過剰に摂取すると、上記の低ナトリウム血症(水中毒)の状態になる危険がありますので、注意が必要です。
逆に、寒冷な環境等で発症する低体温症では、ふるえや意識障害、昏睡、それに心拍や呼吸が遅く弱くなって心停止に至ることもあります。
<血圧>
原因となる病気が特定できない本態性高血圧・本態性低血圧の他、他の病気の症状としてあらわれることもあります。糖尿病(高血糖)と高血圧、低血糖と低血圧といったのがその例です。
<自律神経>
成長期や更年期に発症しやすい自律神経失調症では、からだの自動調節が上手く働かないことで、心拍数の急激な変化や体温調節の異常など様々な不調が起きます。
◇二酸化炭素濃度のはなし
二酸化炭素濃度が高くなると、人体に悪影響を及ぼします。
大気中(地表付近)の二酸化炭素濃度は410-420ppm(約0.04%)ですが、濃度が上がると頭痛や倦怠感等の不調があり、ひいては呼吸困難に至り、200,000ppm(20%)では死に至ります。室内の二酸化炭素濃度は1,000ppm以下であるのが望ましいとされます。
閉め切った部屋では人の呼吸によって二酸化炭素濃度は上昇します。呼気に含まれる二酸化炭素は約4%、大気組成に比べ、酸素濃度が少し下がって、その分、二酸化炭素濃度が上昇した感じで、濃度的にはたいしたことがないように見えます。しかしながら、二酸化炭素濃度計を設置してみるとわかりますが、思った以上にその上昇は急激に起こります。その点から、室内の換気には留意する必要があります。
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2024年10月10日
吉田 亜登美