ヒトの生体が生命を維持していくには、体内の環境がある状態に保たれている必要があります。
例えば、ヒトは恒温動物で、外気温がどうであれ、体温を一定の範囲内に保とうとします。
今回は、この恒常性維持(ホメオスタシス)について見ていきましょう。
外部環境や体内の変化に対して、生命維持に必要な生理機能を正常に保つために、生体の内部環境を一定の状態に維持しようとします。この仕組みを「恒常性維持(ホメオスタシス)」といいます。
体温、体液、血流・血圧、血糖値、エネルギー代謝、呼吸や免疫などの生理機能の調整が、生体内では間断なく行われています。
体内の様々なプロセスが正常に行われるためには、安定した状態が必要です。これが崩れると、機能に障害が生じ、病気に結び付くこともあります。
からだの内部環境は相対的に安定した状態を維持していますが、この状態に異常があると、元の正常な状態へ戻すようにフィードバックが作動します。
このフィードバックによる恒常性維持には、ほとんどの場合、自律神経系・内分泌系が関わっており、単独もしくは共同で作用します。
体内には状態を感知する様々なセンサーがあります。ここで異常を感知すると、末梢神経から中枢に伝わり、ここから自律神経系や内分泌系に対して、内部環境を正常範囲に戻すように指令がいき、調節されます。間脳にある視床下部は自律神経系と内分泌系の中枢として働いており、生命活動の調節に中心的な役割を果たしています。
自律神経系には交感神経系と副交感神経系があります。
自律神経系は通常、無意識に(自律的に)標的器官を調節します(自律的支配)。
一つの標的器官は、交感神経と副交感神経の両方から支配され(二重支配)、通常、同じ器官に対する交感神経と副交感神経の作用は拮抗します(拮抗支配)。
内分泌系では、内分泌器官からメッセンジャー分子であるホルモンを分泌します。ホルモン産生細胞から分泌されたホルモンは血流に乗り、標的器官の細胞にある受容体に結合して作用を及ぼします。
ヒトのからだは水でできている・・という言われ方をすることがありますが、からだは多くの液体成分を含んでいます。液体成分は体重の約60%を占めており、この液体成分を体液といいます。体液としては、細胞内液が体重の40%、細胞外液が体重の20%です。
* 体液は、新生児で体重の80%、幼児では70%、高齢者は55%というように変化します。
細胞外液としては、血液中の血漿と、血管以外の組織で細胞周囲を満たす間質液があります。
細胞内液と細胞外液は細胞膜によって仕切られており、間質液と血漿の間には血管壁があります。
細胞は体内を循環する細胞外液から酸素や栄養素を受け取り、エネルギー消費によって代謝・産生された老廃物を細胞外に排出することで活動していますので、細胞にとって細胞外液が安定した状態にあることは重要です。
<イオン(電解質)組成>
体液(細胞内液と細胞外液)には、さまざまな電解質と非電解質が溶解しています。 電解質には、陽イオンであるナトリウムイオン、カリウムイオン、カルシウムイオン、マグネシウムイオン、陰イオンである塩素(クロライド)イオン、炭酸水素イオン、リン酸イオン、硫酸イオン等があります。
電解質の組成をみると、細胞内液の主要な陽イオンはカリウムイオン、陰イオンにはリン酸イオンが多いのに対して、細胞外液(間質液と血漿)の主要な陽イオンはナトリウムイオン、陰イオンは塩素イオンと、異なっています。
細胞内外のナトリウムイオン・カリウムイオンの濃度差は、細胞膜に組み込まれたポンプ(Na+/K+ ATPase)が維持しています。通常は細胞膜の内側が細胞外に対してマイナスに荷電(静止膜電位)していますが、神経や筋細胞等では、刺激に応じて細胞膜のイオンチャネルを開くことにより活動電位を発生させて、神経伝達や筋収縮を起こしています。
<浸透圧>
細胞膜等の半透膜の性質により移動できる溶質は異なりますが、半透膜を通過できない溶質に対しては、水は溶質濃度の低い方から高い方へと、濃度差を軽減する方向へ移動します。
細胞外液の濃度が細胞内液よりも低いと水分が細胞内に入って細胞が膨張し、逆に、細胞外液の濃度が細胞内液よりも高いと、細胞内の水分が出て行って細胞は縮んでしまいます。
発汗や水分不足の状態では、細胞外液の水分が減少して溶質が濃縮され、浸透圧が上昇することで、細胞内の水分が細胞外へ出ることで、脱水状態になります。これに対して腎臓の尿細管での水の再吸収量が増加し、体液が増えて浸透圧は一定に保たれます。
<pH(酸-塩基平衡)>
体内では酸と塩基(アルカリ)のバランスを取っていて、これを「酸塩基平衡」と呼びます。酸性・塩基性の度合はpH(水素イオン濃度指数)で表します。
* pH値:0(強酸性)~14(強塩基性)で示し、pH7.0が中性。
体内の活動で生成される二酸化炭素は、体内のpHに影響しますが、肺から呼吸によって排出されます。排出される二酸化炭素量は呼吸の速さと深さで調節されます。
腎臓による酸・塩基の排出・再吸収によってもpHは調節されます。
また、体内の弱酸と弱塩基により、急激なpH変化を抑制する緩衝作用も機能しています。
<体液の調節>
体液の量、組成、pH、浸透圧といった体液(細胞外液)を調節することに、腎機能は大きく関わっています。
細胞外液の量や電解質の濃度といった状態は、体内の種々のセンサーでモニタリングされており、その情報は間脳の視床下部でキャッチされます。
体内が水不足の状態になると、細胞外液の電解質濃度も血液の浸透圧も急上昇します。視床下部がそれをキャッチすると、下垂体後葉に対して抗利尿ホルモンを分泌するよう指令を出します。抗利尿ホルモンは尿細管に働いて、尿を少なくして水分をなるべく体内に留め、水の再吸収を増やします。逆の場合は、抗利尿ホルモンの分泌を抑えます。
腎臓の糸球体は多くの血液をろ過していますが、かなりの部分を再吸収することで体液の状態を調節しています。
私たちの健康に大きな役割を担う医薬品、そして医療・ヘルスケア。
そうしたQOL(Quality Of
Life)産業界全般にわたって、そのプロセスや情報を支えるITを介して、
日立医薬情報ソリューションズは人々の健康・QOL向上に貢献していきます。
2024年9月10日
吉田 亜登美