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株式会社日立医薬情報ソリューションズ

Column

細胞の不思議③-機能その1

「医薬」よもやまばなし

2024年07月10日

ヒトの体には200種以上の細胞がありますが、個々の特化した機能以外に、共通する基本的な構成要素・機能を有しています。
今回は、細胞のもつ機能について見ていきましょう。

細胞膜の機能

細胞を囲む細胞膜は、リン脂質とコレステロールを主要成分とする脂質二重層です。

まず細胞膜には、物質の出入りを制御する機能があります。
酸素や二酸化炭素などいくつかの物質(小分子)は細胞膜を自由に通過できますが、大部分の分子は通過できません。
しかしながら、生命活動を行う上で、細胞は物質の取り込みや排出をする必要があり、そのための輸送システムが備わっています。

主にナトリウムイオン・カリウムイオン・カルシウムイオン・クロライドイオンといった無機イオンを通過させるチャネルタンパク質があり、状態によって特定のイオンを通し、濃度勾配・電位勾配による拡散によって運ばれます。これらは「イオンチャネル」と呼ばれます。
ナトリウムイオン・カリウムイオンは、神経細胞の興奮や筋肉の収縮、カルシウムイオンは酵素の活性化、クロライドイオンは神経や筋肉の興奮性を抑制する働きがあります。細胞の酸塩基性(pH)やイオンバランスは細胞の正常な機能維持に重要で、生体内の様々なプロセスに影響します。

また、膜に存在する膜輸送タンパク質である担体(トランスポーター)は、特定の分子と選択的に結合して、膜の反対側へ輸送します。グルコースやアミノ酸はこの仕組みによって運ばれます。

こうしたチャネルやトランスポーターを介した輸送は、ATP(細胞内のエネルギー源)のエネルギー消費を必要とせず、「受動輸送」といいます。

これに対して、濃度勾配に逆らった選択的な物質輸送は、ATPのエネルギーを必要とし、「能動輸送」といいます。ポンプと呼ばれる膜タンパク質により、イオンやペプチド等の物質の輸送を行っています。

これらチャネルやトランスポーター、ポンプによる物質輸送調節を、膜タンパク質による選択的透過性といいます。

また、細胞外からの情報を細胞内に伝達する仕組みとして、細胞膜表面に多くの受容体タンパク質が備わっています。細胞外にある物質(情報伝達物質)と受容体が特異的に結合することで、細胞外からのシグナルを細胞内に伝えます。

このように、細胞膜には、脂質二重層の中に物質輸送や情報伝達のための特殊なタンパク質(受容体、酵素、担体、チャネルやポンプなど)が分布しています。

細胞内外輸送

細胞膜における物質の出入りの制御では、物質輸送の対象は分子量の小さい低分子ですが、一方で、膜タンパク質では対応できないもっと大きな分子に対しては、異なる機能があります。

  • エキソサイトーシス(細胞内で合成された物質を細胞外へ放出する機能)
  • エンドサイトーシス(細胞外から細胞内に物質を取り込む機能)

エキソサイトーシスは、細胞内で合成された化学伝達物質やホルモンなどの物質を細胞外に運び出す手段です。これらの物質を包み込んだ輸送小胞が細胞膜まで移動して、小胞膜と細胞膜が融合し、小胞内の物質が細胞外に分泌されます。

これに対し、エンドサイトーシスは細胞外から細胞に必要な物質を細胞内に取り込みます。
細胞外物質が細胞膜に結合すると、細胞膜が陥入してそこに物質が入り、細胞膜で取り囲んで小胞を形成します。この小胞が元の細胞膜から遊離して、細胞内に物質を取り込む仕組みです。病原体がこの仕組みを使って細胞へ侵入し、感染に繋がることもあります。

細胞内輸送

オルガネラは独立して働いていますが、互いに物質をやりとりするオルガネラ間の物質輸送システムがあります。

細胞内におけるタンパク質合成のプロセスにおける、物質の細胞内輸送の仕組みを見てみます。

タンパク質の合成においては、まず細胞核内でDNAの二重らせんの必要な部分がほどけて、RNAポリメラーゼによりmRNAが合成されます。これが核膜孔を通過して細胞核外の細胞質に移動し、細胞質内にあるタンパク質合成の場であるリボソームに送られます。
mRNA上に多数のリボソームが集合したポリリボソーム(ポリソーム)においてタンパク質の合成が行われますが、細胞質基質に遊離した状態の遊離ポリソームで開始されます。一定の段階まで翻訳が進むと、行先を指定する特別なアミノ酸配列であるシグナル配列が出現することで、合成中のタンパク質の行先が決まります。
小胞体・ゴルジ体・エンドソーム・リソソームや細胞膜・細胞外へ行くタンパク質を合成している遊離ポリソームは、小胞体膜に結合し、膜結合ポリソームとして小胞体表面でタンパク質合成を続けます。膜結合ポリソームで合成されたタンパク質は小胞体に取り込まれ、そこから輸送小胞と呼ばれる膜小胞を介して目標の細胞小器官に輸送されます(小胞輸送)。
一方、細胞内の細胞核・ミトコンドリア・ペルオキシソーム(種々の代謝を担うオルガネラ)を行先とするタンパク質とサイトゾルで働くタンパク質を合成している遊離ポリソームは、そのまま遊離ポリソームでタンパク質合成を続け、合成されたタンパク質は細胞内に拡散して目標の細胞小器官に取り込まれます。

小胞輸送では、送り手側の生体膜の一部が突出し、輸送する物質を含んだ状態で根本がくびれ、分離した袋(輸送小胞)となります。輸送小胞は運ばれて、受け手の膜表面の分子を介して受け手を認識し、結合します。輸送小胞の膜と受け手の膜が融合し、輸送小胞内の物質が受け手の内部に放出されます。

エキソサイトーシスにおいても、同様に、輸送小胞(分泌小胞)の膜と細胞膜が融合し、中のタンパク質(分泌物)が細胞外に放出されます。
エンドサイトーシスにおいても小胞輸送によって制御されています。

こうした細胞内の生体膜を介した輸送経路を「メンブレントラフィック」と呼びます。生体膜の分裂や融合により、細胞膜とオルガネラの間、オルガネラ同士の間で分子が移動する過程です。



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2024年7月10日
吉田 亜登美