生物を構成する基本単位である細胞。全ての生物は細胞でつくられています。その大きさは、1㎛以下から数十㎛のものがあり、細胞の種類によって様々です。ヒトのからだには、約37兆個の細胞があるとされます。
*以前は60兆個とされていましたが、これは全ての細胞が同じ大きさであると仮定して算出されたもので、2013年に細胞の大きさを考慮したものとして約37兆個に訂正されました。
今回は、細胞の世界を見ていきましょう。
細胞にはいろいろな種類がありますが、全ての細胞で共通するのは、膜(細胞膜)で覆われた構造と、遺伝情報を内部に持っているということです。
遺伝情報が核(細胞核)の中にある細胞を「真核細胞」、細胞の中に遺伝情報はあるものの核を持たない細胞を「原核細胞」と言います。真核細胞からできているのが「真核生物」、原核細胞からできているのが「原核生物」です。
また、一つの細胞で一つの個体となっている生物を「単細胞生物」、多くの細胞によって一つの個体をつくっている生物を「多細胞生物」と言います。
もちろん、ヒトは真核生物で多細胞生物です。植物、動物は真核生物で多細胞生物です。
カビやキノコといった菌類も真核生物で、酵母以外は多細胞生物です。
アメーバやゾウリムシといった原生動物は真核生物で単細胞生物です。
細菌は原核生物で単細胞生物です。
真核生物、特に動物の細胞は共通の要素で構成されています。
細胞は、細胞内部を外界から隔てる細胞膜で囲まれています。
細胞膜で囲まれた内部(原形質)には、細胞核と細胞質があります。細胞質は、細胞小器官と細胞質基質(サイトゾル)から構成されます。
細胞膜の基本構造は脂質二重層で、脂質の主要成分はリン脂質とコレステロールです。リン脂質分子は親水性部分と疎水性部分を持っていて、細胞内外に接するところは親水性部分です。この脂質二重層に膜タンパク質が組み込まれています。
細胞膜は選択的透過性を有していて、物質の出入りを制御しています。
細胞核には遺伝物質であるDNAが格納されています。
細胞核は核膜に囲まれています。核膜も脂質二重層から成り、核膜孔という小さな穴が多くあり、核と細胞質の間で選択的に物質の輸送が行われます。
DNAはクロマチンという構造体(染色質)で核の中に存在しています。
核内には、rRNA(リボソームRNA)とリボソームタンパクから成るリボソームの組み立てを行う核小体があります。リボソームは核膜を通って細胞質に運ばれ、mRNA(メッセンジャーRNA)の情報からタンパクを合成する翻訳装置として機能します。
細胞質にある細胞小器官(オルガネラ)はミトコンドリア、小胞体、ゴルジ体、リソソームなど、固有の機能を持っています。それぞれ脂質二重層から成る生体膜(細胞膜や核膜も生体膜の一つ)で包まれています。
細胞小器官が浮かんでいる液体部分が細胞質基質です。
ミトコンドリアはすべての細胞の内部に存在する小さな構造物で、外膜と内膜があり、外膜と内膜の間の空間を膜間腔、内膜内の空間をミトコンドリアマトリックスと呼びます。内膜にはATP合成酵素があり、細胞活動に必要なエルギーのエネルギー源となるATP(アデノシン三リン酸)を産生します。また、ミトコンドリアは、細胞核とは別に独自のDNA(ミトコンドリアDNA)を持っていて、もとは別の原核生物だったものが、ほかの生物の細胞に取り込まれ共生することで形成されたと考えられています。
小胞体には、タンパク質合成を行う粗面小胞体と、薬物代謝に関与する滑面小胞体があります。
ゴルジ体はタンパク修飾等を行います。
リソソームには、あらゆる生体物質を分解することのできる多種の分解酵素が存在しています。
真核生物に対して、より原始的な原核生物では、DNAが核膜に囲まれておらずにむき出しの状態であり、細胞小器官を持っていません。
また、植物の細胞は基本的な仕組みは共通ですが、光合成を行う細胞小器官である葉緑体を持ち、細胞膜の外側にセルロースでできた強固な細胞壁があります。そして細胞質のかなりの体積を占める液胞があり、リソソームに相当する不要物の分解等の機能を担っています。リソソームは植物細胞にはありません。
◇ 細胞の発見
イギリスの科学者、ロバート・フックが倍率30倍ほどの顕微鏡を組み立てて種々の生物等を観察し、1665年に出版した書籍「ミクログラフィア」の中に、コルクの切片の観察が含まれていました。コルクの断片に無数の穴が空いている様がスケッチされていて、コルクが非常に小さい空間から構成されていることを報告しています。そしてこの空間をラテン語で「小部屋」を意味する「cellua」にちなんで、「cell(セル)」と名付けました。
コルクは植物の樹皮などからつくられ、死んで中身のなくなった植物細胞の細胞壁です。
「cell」はその後「細胞」の意味で使われるようになりました。
ちなみに、細胞をはじめて顕微鏡で観察したロバート・フックは、弾性の法則「フックの法則」(ばねの伸びは荷重に比例する)で有名なフックその人です。重力や光の干渉に関する研究等、多岐に渡る業績を残しています。
その後、オランダの科学者、アントニ・ファン・レーウェンフックが倍率約200倍の単レンズ顕微鏡を製作し、生物の観察から微生物の存在を発見するといったことがありました。
19世紀になると顕微鏡の性能が大幅に向上し、より詳細な観察が可能になりました。
イギリスのロバート・ブラウンは、細胞内の細胞核の存在を観察し、発表しました。
1838年にドイツのマティアス・シュライデンが植物について、1839年にテオドール・シュワンが動物について、「全ての生物は細胞を基本単位としてできている」とする「細胞説」を提唱しました。
「全ての細胞は細胞から生じる」とする細胞分裂については、1858年にドイツの病理学者であるルドルフ・フィルヒョーが提唱しました。
細胞を観察する際、そのままでは半透明で見えにくいのですが、薬品を用いて細胞を染色する技術が開発され、細胞小器官などの内部構造も明らかになっていきました。
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2024年5月10日
吉田 亜登美