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株式会社日立医薬情報ソリューションズ

Column

続・核酸医薬

「医薬」よもやまばなし

2023年12月08日

新型コロナウイルスワクチンで知名度を上げ、2023年のノーベル生理学・医学賞の対象ともなった、核酸医薬の一つであるmRNA(メッセンジャーRNA)医薬ですが、核酸医薬としては、種々のものが研究・開発されています。承認されたものはまだ多くはないですが、承認・上市されたものもあります。
今回は、前回に引き続き、いろいろな核酸医薬についてみてみましょう。

アンチセンス

アンチセンスオリゴヌクレオチド(ASO)は、標的とするRNAに相補的に結合することで、RNAの機能を制御するものです。構造としては、特定のRNAに相補的な配列を持つ一本鎖オリゴヌクレオチド(DNA/RNA)で、塩基長は8~30程度です。

*相補的な配列・結合・・核酸では、相対する塩基の間で水素結合を形成して結び付きます。その塩基対は、A(アデニン)⇔T(チミン、RNAではUウラシル)/ G(グアニン)⇔C(シトシン)です。塩基配列がこの相対する塩基になっているのが「相補的な配列」、相補的な塩基同士が水素結合によって結合することが「相補的な結合」です。

標的となるRNA(mRNA/mRNA前駆体/マイクロRNA)に対して配列特異的に二本鎖を形成して、生体内の疾患関連タンパク質の制御を行います。作用機序としては以下があります。

  • ASOと標的RNAが形成した二本鎖DNA-RNAハイブリッドをリボヌクレアーゼ(二本鎖を認識してRNA鎖を切断する酵素RNase)が認識してRNA鎖を切断・分解することで、RNAの機能を消失させる。
  • ASOが標的RNA(mRNA前駆体)の翻訳開始部位やスプライシング調節部位に結合して、RNAにコードされたタンパク質の生成を制御する。
  • ASOがマイクロRNA(miRNA)に結合することで、miRNAの機能(mRNAに結合することで遺伝子発現を抑制)を阻害する。これにより、miRNAは標的mRNAに結合できず、mRNAの機能は抑制されない。

また、新規の作用メカニズムとして、RNAの種々の機能サイトにASOが結合することにより、翻訳増強や安定化など機能亢進するものと、RNAの分解により機能抑制するものといった、新たなRNA機能制御が付加されたASOが研究されています。

アンチセンスオリゴヌクレオチドは、核酸医薬の中では先行しています。
1998年にサイトメガロウイルス網膜炎の治療薬が米国で上市され、特に2016年以降、種々の希少疾患治療薬が上市されています。
脊髄性筋萎縮症は、遺伝子の異常により筋肉を動かす運動神経が変性して運動機能障害を起こす病気です。2016年に米国、2017年に日本・欧州で承認された脊髄性筋萎縮症治療薬は、筋肉を動かすために必要な機能タンパク質をつくる過程のmRNA前駆体に作用し、正常なタンパク質を増やすことで、運動神経の働きが維持されるようになります。有効性も高いのですが、高薬価です。
また、日本発の初めての核酸医薬として、デュシェンヌ型筋ジストロフィー(遺伝性筋疾患)治療薬が2020年に上市されました。
これ以外にも、他のデュシェンヌ型筋ジストロフィー治療薬、遺伝性ATTRアミロイドーシス(異常タンパクの沈着による機能障害)や家族性カイロミクロン血症(脂質異常症の一つ)、筋委縮性側索硬化症(ALS)の治療薬が日本以外で承認されています。

siRNA

siRNA(small interfering RNA:低分子干渉RNA)は20塩基程度の二本鎖RNAで、細胞質内において標的mRNAに対してRNA干渉という現象を引き起こすことで、タンパク質翻訳を阻害します。RNA干渉というのは、二本鎖RNAが相補的な塩基配列をもつmRNAを特異的に捕捉・切断することによって遺伝子の発現を抑える現象で、細胞内に備わった機能です。

siRNAを用いた核酸医薬の研究は、1998年にそのメカニズムが発見されて以降、続けられてきましたが、DDS(ドラッグデリバリーシステム)開発や免疫反応などの問題がありました。これに対し、免疫原性を回避する化学修飾、LNP(脂質ナノ粒子)や糖鎖などのDDS面の開発が進むことで、実用化の道が開けました。
初のsiRNAとしては、遺伝性ATTRアミロイドーシス治療薬が、2018年に米国・欧州、2019年に日本で承認されました。
また、急性肝性ポルフィリン症(遺伝性ヘモグロビン合成異常)治療薬、高コレステロール血症治療薬等が日本でも承認されています。

miRNA

miRNA(マイクロ RNA)は、21~25塩基程度の一本鎖RNAで、ゲノムにコードされているもののタンパク質へは翻訳されません。mRNAを認識・結合して分解することで遺伝子発現を抑制する働きをもちますが、様々な生理機能の制御や疾患との関係がわかってきています。miRNAの発現異常によって疾患が引き起こされるのであれば、miRNAの発現量を正常に戻せばよいことになります。

この観点から、治療法として以下が考えられています。

  • 疾患において発現量が減少したmiRNAを化学合成したmiRNAによって補う補充療法
  • 疾患の原因となるmiRNAを阻害するmiRNA阻害的治療法

医薬品としてのmiRNAは前者が対象です。後者はアンチセンスオリゴヌクレオチドの一種として開発されています。

miRNAとして承認されたものはまだありませんが、疾患との関連が明らかになるに従って、研究が進められてきています。
がんや繊維性疾患、免疫疾患、心疾患などへの適用が研究されています。

アプタマー

アプタマーは、15~40塩基程度の一本鎖DNA/RNAで、配列固有の高次構造を形成します。細胞外にあるタンパク質を標的とし、特異的に結合してタンパク質の機能を阻害します。一般的にはタンパク質の立体構造の凹みに入って安定的な三次元構造を形成することで、タンパク質の機能を阻害するものです。細胞内への取り込みを考慮しなくてよいという特徴があり、標的分子に対して高い特異性と親和性を有します。

加齢黄斑変性症治療薬が三極で承認されています。

その他の核酸医薬

<デコイオリゴヌクレオチド>
20塩基程度の二本鎖DNAで、転写因子(タンパク質)が核内DNAのプロモーター領域(転写開始位置の制御を担う領域)に結合する前に、囮(デコイ)として転写因子に結合し、DNAの転写を阻害するものです。

<CpGオリゴヌクレオチド>
20塩基程度の一本鎖DNAで、細胞表面のタンパク質受容体を標的とし、自然免疫を活性化させます。



新たなタイプの核酸医薬も研究が進められています。
核酸医薬は、これまで治療が困難だった疾患に対する新規の治療法として期待されています。




※本稿は2023年11月時点の情報です。最新の承認状況については、国立医薬品食品衛生研究所のホームページ
https://www.nihs.go.jp/mtgt/pdf/section2-1.pdf>を参照ください。

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2023年12月8日
吉田 亜登美

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