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株式会社日立医薬情報ソリューションズ

Column

モダリティについて

「医薬」よもやまばなし

2023年10月10日

医薬・製薬の世界で、「モダリティの多様化」ということが言われています。
「モダリティ(modality)」というのは、「様式」といった意味があり、ここでは薬の形態や治療手段を指すものです。近年、医学・薬学の進展に伴って、新しい形態・様式の医薬や治療法が実用化されてきていることが、多様化と言われる所以です。
今回は、医薬におけるモダリティについてみてみましょう。

モダリティの種類

モダリティの種類について、定義や分類に確固としたものがある訳ではないので、代表的な形態・様式の観点から挙げてみましょう。

<天然物・生薬>
そもそもの薬の起源は、自然に存在するもの、つまり天然物です。
何等かの薬効を持つ成分を含む植物(薬用植物 / 薬草)や動物由来、鉱物由来の生薬(しょうやく)が知られています。
漢方薬は漢方医学に基づいて、複数の生薬を調合したものです。
西洋医学に基づく薬が主流になっているとはいえ、現在でも漢方薬は医療用医薬品・一般用医薬品として使用されています。
例えば、芍薬甘草湯(しゃくやくかんぞうとう)は、筋肉・腱の異常緊張を弛緩させる芍薬と、種々の急迫症状を緩和・弛緩させる甘草を成分とする漢方薬ですが、痙攣性の疼痛を抑制する対症療法として著効があります。ふくらはぎが痙攣して激しく痛むこむら返りといった足が攣った際には、即効性のある特効薬です。

<低分子医薬品>
近代の医薬品としての主役は、主に人工的に合成された低分子化合物です。
低分子医薬品は、一般的には分子量500以下程度の化合物を有効成分とする医薬品を指します。これは生体膜を透過できる、つまり細胞の中に入り込める大きさで、細胞内で起こっている反応に関与することで作用を発揮することができます。
化合物の由来としては、植物や微生物といった天然物に由来するものと、人為的に設計したものがあります。
天然物由来の医薬品において、天然物(原料)から目的とする有効成分を精製したものもありますが、有効成分を単離して構造を決定し、人工的に化学合成しているものも多くあります。
自然界にあった構造を基にして、その一部を変更(構造修飾)してよりよい医薬品を創り出すこともなされてきました。
経験的に薬効成分を持つことが解っているものや偶然発見されたケースはよいのですが、薬効成分を持つ天然物を探すのは大変です。
人為的に設計して化学合成するのは設計の自由度はありますが、どういう構造が有用なのかというドラッグデザインとそれに対する効率的な合成法の研究が重要です。
低分子医薬品以外のものが開発されているのは事実ですが、今でも毎年新規に上市される医薬品の 60% 以上は低分子医薬品です。

<バイオ医薬品>
近年、急速に進展したのが、バイオ医薬品です。バイオ医薬品はバイオテクノロジーを応用した医薬品です。

バイオ医薬品の中でも、主流を成したのが抗体医薬品です。
もともと体内で免疫反応によってつくられる抗体ですが、単一の抗体を効率的につくるモノクローナル抗体技術によって、モノクローナル抗体が医薬品として大型製品の上位を占めるようになりました。
化学合成する低分子医薬より製造が難しく、コストもかかり、製剤としては注射剤が中心となります。
細胞内には入れませんが、標的タンパクを精度よく認識して結合することができ、がんや自己免疫疾患を中心に展開されています。

抗体医薬品と低分子医薬品を組み合わせた抗体薬物複合体(ADC)も、それぞれの特徴を活かした医薬品として開発が進んでいます。

核酸医薬品も続いています。
承認されたものはまだ多くはないですが、脊髄性筋萎縮症や筋ジストロフィーを対象とする「アンチセンス医薬」(標的とするRNAに結合してその機能を制御する)、アミロイドーシスに対するsiRNA(二本鎖RNAを送り込んでRNA干渉という現象を引き起こす)、加齢黄斑変性症を対象とするアプタマー医薬(タンパク質に結合するDNA/RNA鎖により、その機能を阻害する)などが実用化されています。
コロナワクチンで脚光を浴びたmRNA技術も、もともと治療薬への適用を目的に研究されていたものであり、がん免疫療法をはじめとして治療薬の実用化を目指しています。

組換えタンパク・ペプチド医薬は、生理活性物質を補う働きや、ワクチンにおける抗原の役割を担うといった使われ方があり、更に天然型により機能を向上させたものも開発されています。

また、分子の大きさの観点から、低分子医薬品とタンパクの間(分子量500~3500程度)の化合物を中分子医薬品と称することがあり、ペプチド医薬品や核酸医薬品(の一部)を含むという考え方もあります。

<再生医療等製品>
「医薬品」とは別のカテゴリとして、医薬品医療機器等法に定義された「再生医療等製品」。ここでは「再生医療」「遺伝子治療」「細胞治療」がキーワードになっています。
再生医療では、軟骨など欠損した身体の一部を再建・補完するものだけでなく、心筋シート(細胞治療ともいえます)や幹細胞による脊髄損傷治療のように機能回復を図るものもあります。
遺伝子治療では、目的遺伝子を投与して体内で発現させることで遺伝子起因の病気を治療する、脊髄性筋萎縮症の治療薬などがあります。
細胞治療では、体外に取り出した細胞に遺伝子改変を施して増殖させた細胞を体内に戻すCAR-T療法が挙げられます。
遺伝子組換えウイルス投与によるウイルス療法(腫瘍溶解性ウイルス)も新しい治療法です。
iPS細胞の治療への応用も進んでいくと考えられます。

<デジタル・ヘルスケア>
今までの医薬の概念とは異なる治療として、デジタル治療が挙げられます。
日本でも2020年より治療アプリが承認されてきています。カテゴリとしては、医療機器に分類されます。

その先に・・

このように、分子、遺伝子や細胞、そしてデジタルというように、多様化してきているのがわかります。
また、体内に共生しているマイクロバイオーム(微生物叢)が健康に関連していることが明らかになっており、治療や予防への応用が研究されています。
まさに、「マルチモダリティの時代」と言えます。

疾患の研究が進むにつれて、その詳細が解明されてくると、同じ疾患と考えられていたものが細分化されてきます。そして治療法の選択肢も広がっています。
患者背景や病態のプロファイリングが可能となることで、個人に最適な治療法を選択するという「個別化医療」の方向にあるといえます。


研究・技術の進展と相まって、今後も新たなモダリティが開発・実用化されていくことでしょう。



私たちの健康に大きな役割を担う医薬品、そして医療・ヘルスケア。
そうしたQOL(Quality Of Life)産業界全般にわたって、そのプロセスや情報を支えるITを介して、
日立医薬情報ソリューションズは人々の健康・QOL向上に貢献していきます。


2023年10月10日
吉田 亜登美

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