がんは遺伝子に起こる病気であり、がんという病気自体が感染することはありません。
しかしながら、細菌やウイルスの感染が原因となるがんはあります。
今回は、感染症とがんの関係についてみてみましょう。
細菌・ウイルス感染のなかには、特定のがんの発生を引き起こすものがあります。
がんの発生に関係する細菌・ウイルスとしては、以下が知られています。
日本人のがんの原因のうち、感染は約20%を占めるとされます。
また、その大半は、肝炎ウイルス、ヒトパピローマウイルス、ピロリ菌です。
細菌・ウイルスといった病原体が宿主(ヒト)の細胞をがん化させるメカニズムとしては以下が挙げられています。
感染しても感染症を発症しない(症状がない)、あるいは自覚症状がない場合でもがんを発症することがあるので、注意が必要です。
代表的な感染を原因とするがんについて、発がんと予防をみていきます。
<ピロリ菌と胃がん>
ピロリ菌感染は、食塩の過剰摂取や喫煙と並んで、胃がんの危険因子に挙げられます。胃がんの80%はピロリ菌感染が原因と言われ、ピロリ菌感染は胃がんの主要因とされます。
ピロリ菌感染により胃粘膜が炎症を起こし、これが持続すると、慢性胃炎、腸上皮化生(胃粘膜上皮がびらんと再生を繰り返すうちに腸管粘膜上皮の形態に変化した状態)といった胃がんを発生しやすい粘膜になります(胃の細胞のDNAが傷つけられて胃がんに発展しやすくなる)。
また、ピロリ菌の産生するタンパクが細胞内のシグナル伝達因子を活性化することで、増殖シグナル伝達を促進して細胞の異常増殖を起こすと考えられています。このタンパクは増殖能亢進の他、細胞運動能の亢進や抗アポトーシス作用も引き起こすとされます。
こうしたことで胃がんを発症することになります。
ピロリ菌の除菌により胃がんの発生は抑制されます。ピロリ菌の感染の有無が確認できる検査方法は複数あり、ピロリ菌があれば除菌するのが望ましいです。
除菌治療としては、胃酸の分泌を抑制する薬と2種類の抗生物質を一週間服用します。
<肝炎ウイルスと肝がん>
肝がん(肝細胞がん)の約60%はC型肝炎、約15%はB型肝炎から発症します。
肝炎ウイルス感染が持続すると慢性肝炎となり、肝硬変、前がん病変を経て肝細胞がんとなります。B型肝炎ウイルスを原因とする肝細胞がんでは、ウイルス感染から直接肝細胞がんに進行する場合もあります。
B型肝炎ウイルスは、ワクチン(B型肝炎ワクチン/HBVワクチン)で感染を予防することができます。
B型肝炎ワクチンは、肝炎ウイルスの成分であるタンパクの一部を人工的に作成したもので、これを接種することで免疫を誘発します。
C型肝炎ウイルスの表面タンパクは構造が変化しやすいこともあり、現時点でC型肝炎ワクチンはありません。
B型およびC型肝炎ウイルスの感染が分かった場合には、肝細胞がんの予防として、肝炎が進行しないように、ウイルスの排除や増殖を抑える薬を用いた抗ウイルス療法を受けることが勧奨されています。
<ヒトパピローマウイルスと子宮頸がん>
ヒトパピローマウイルス(HPV)の持続感染により子宮頸がん等を発症します。
HPVは感染してヒトの細胞に入り、ウイルスDNAがヒトDNAに組み込まれてウイルス由来のタンパク(ウイルスのがん遺伝子産物)がつくられ、これがヒトのがん抑制遺伝子産物(がん抑制遺伝子から作られるタンパク)を阻害します。これにより、細胞増殖、アポトーシスの制御に異常をきたし、がん化・発がんが促進されます。
HPVワクチンは、HPVのDNAを持たずカプシドのみのウイルス様粒子を接種することで、HPVのカプシドに特異的な抗体が産生されます。この抗体がHPVの感染を防ぎ、発がんが抑制されます。
原因となる感染症を防ぐことで、がんの発症を抑えられるのであれば、対応するのが望ましいでしょう。
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2023年08月10日
吉田 亜登美