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株式会社日立医薬情報ソリューションズ

Column

感染症の流行

「医薬」よもやまばなし

2023年06月09日

既知の感染症も完全には克服できたとはいえず、一方で新規の感染症が流行することもあります。そして、その病原性と伝染性によっては、大きな社会的インパクトを与えることもあります。
感染症の流行について、これまでの闘いの一端をみてみましょう。

感染症の流行

感染症の流行は、規模に応じて、「エンデミック」「エピデミック」「パンデミック」に分類されます。規模としては、「エンデミック < エピデミック < パンデミック」となります。

  • エンデミック(特定感染 / 地域流行)
    ある感染症が特定の地域である程度発生することや、恒常的あるいは周期的な罹患が認められること。流行が特定の地域に限定される風土病もこれに含まれる。
  • エピデミック(過感染)
    ある感染症が特定の地域や国で急激に流行、感染が拡大すること。
  • パンデミック(世界的流行 / 感染爆発)
    ある感染症が全世界で急激に流行すること。ある感染症が世界的な規模で流行し、感染症の脅威にさらされている状態、または感染症が国を超えて拡大し、制御が難しい段階に達した状態。

また、「アウトブレイク(集団感染)」は、ある感染症が特定の集団において突発的に感染拡大を起こすことを指します。

いずれもその定義に明確な定量的指標・基準がある訳ではありません。

パンデミックの歴史

これまでにヒトに対してパンデミックを引き起こした感染症は多くあります。
そのいくつかを挙げてみましょう。

<ペスト(黒死病)>

原因となるペスト菌はグラム陰性の桿菌で、本来は齧歯類(ネズミ)を自然宿主とし、ノミを介してヒトに感染します。ノミから感染して発症する腺ペストではヒト-ヒト間の伝染はありませんが、腺ペスト患者が敗血症などで肺に移行したペスト菌による肺炎(続発性肺ペスト)に罹ると、飛沫感染等による感染で原発性肺ペストを発症することで、ヒト-ヒト間の伝染が起こります。
未治療時では、腺ペストの致死率は40~90%、肺ペストではほぼ100%とされます。
現在では、ストレプトマイシンやレボフロキサシンなどの抗菌薬が有効で、早期発見できれば治療は可能です。

これまで3回のパンデミック(6世紀、14世紀、19世紀末)がありました。なかでも、14世紀のパンデミックは、中央アジアを発生源としてモンゴル帝国の行軍や交易でヨーロッパ全土に伝播、全世界に広がったものです。
これは19世紀初頭まで流行を繰り返しています。17世紀のロンドンでも大流行し、この時大学が休校となったことで、学生だったアイザック・ニュートンは帰郷して万有引力の法則の発見などをしたと言われています(「創造的休暇」と呼ばれています)。

日本では、19世紀末に中国から上陸し、20世紀初頭にかけて罹患者が出ましたが、それ以外の発生はないようです。

<コレラ>

コレラはコレラ菌の産生する毒素によって急性下痢症を引き起こすものです。
コレラの原因であるコレラ菌はグラム陰性のらせん菌(「,」の形でコンマ菌とも言われる)で、飲み水の汚染を感染源として経口的に感染していきます。
脱水症状の改善と電解質バランスの是正が重要で、軽症であれば経口補水液投与、重症の場合は輸液静注を行います。薬物治療としてはニューキノロン系やテトラサイクリン系の抗菌薬が投与されます。

コレラはもともとインドのベンガル地方(ガンジス川流域)の風土病だったのですが、イギリスによる植民地化を機に、19世紀以降、世界に広まることになりました。7回の世界的なパンデミックが起きて、数千万人が死亡したと言われています。
日本においては、19世紀初頭のアジア全域の流行時に多数の犠牲者が出たのに続き、幕末の黒船来航に端を発したパンデミックが起こっています。この流行は3年間にわたって続き、異国への敵視、ひいては幕府の弱体化に繋がったとされます。当時は感染ルートも対処法もわかっておらず、発症して程なく死に至ることで、「虎狼痢(コロリ)」と呼ばれました。
上下水道の分離・整備といった衛生環境の改善により流行が抑制されるようになっています。

<結核>

古くからある感染症の一つである結核は、今でも、マラリア、後天性免疫不全症候群AIDSと並んで世界三大感染症の一つです。
結核の病原体である結核菌は、抗酸菌に属する桿菌です。結核菌はヒトのみを自然宿主とし、空気感染で強い伝染性を持っています。
かつては「不治の病」で致死率の高いものでしたが、抗生物質ストレプトマイシンの登場で治癒が可能になりました。
予防としてはBCGワクチン、治療としては複数の抗菌薬(抗結核薬)併用というように、今では予防・治療が確立されています。
しかしながら、近年でも大流行があり、過去の病気とは言えない感染症です。

<痘瘡(天然痘)>

人類にとって最悪の感染症と言われる天然痘。痘瘡ウイルスが原因で、空気感染による伝染力が強い感染症です。古くから流行を繰り返してきました。
18世紀にはジェンナーによって牛痘接種(現在の種痘=天然痘ワクチン)が考案され、予防法として有効に機能しました。
天然痘は、人類が根絶した唯一のヒト感染症です。これが可能となったのは、「感染すれば容易に診断できる」「ヒトにしか感染しない」「優れたワクチンが存在する」、そして「痘瘡ウイルスは突然変異しない(単一のワクチンがずっと有効)」という特性によるものと言われています。
根絶したとはいえ、治療薬(抗ウイルス薬)はあります。



感染症流行の影響は、その病原性と伝染性(感染力)に依存します。対象の感染症自体を理解し、対処していくことが求められます。



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2023年06月09日
吉田 亜登美

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