感染症には多種多様なものがあり、その病原性も様々ですが、感染が広まることで人類にとって脅威になったものもあります。
新規の感染症の流行や、変貌といった観点から、その概略をみてみましょう。
太古の昔よりいろいろな感染症に苦しめられてきました。そして、克服できていないものが多いのも事実としてあります。
そうした中で、改めて問題になっている感染症において、感染の経緯の観点でいくつかのタイプが挙げられます。
何故、新規の感染症が流行するのでしょうか。
新興感染症には、野生動物が保有する病原体が起源であるものが多くあります。以前はヒトが近づかなかった領域に出かける・進出する、野生動物を食材とする、あるいは、ヒトの居住区に動物が現れるといったことを通じて、人類が接することのなかった病原体との接触の機会が増えていることが考えられます。
病原体自体の変異等により、他の種に感染するようになったり、強毒化したりするということもあります。考えたくはないですが、人為的に改変するということも技術的には可能です。
また、治療薬として開発した薬を使用しているうちに、効かなくなることがあります。こうした薬剤耐性を獲得した病原体も現れています。
薬剤耐性というのは、薬物に対して感受性が低く、通常の用量では効果が期待できない、つまり抵抗性をもつ状態を言います。
ある薬剤に対してもともと耐性があるという自然耐性というのもありますが、本来はある薬剤に対して感受性があった(薬理効果があった)にもかかわらず、抵抗力を持って効かなくなってしまうという獲得耐性があります。
耐性は薬剤耐性遺伝子によって産生されるタンパクの働きによって起こるものです。
耐性菌が出現するメカニズムとしては、遺伝子の突然変異と外部からの耐性遺伝子の獲得が挙げられます。後者は細菌の持つ遺伝子水平伝播の仕組みにより、耐性を獲得した細菌とは別の細菌にも耐性が広がってしまいます。
耐性のメカニズムにはいくつかのタイプが知られています。
獲得耐性においては薬剤の使用方法が問題になります。
例えば、効果がないのに頻繁に使用することで薬剤耐性の原因になるということがあります。治療対象となる細菌がいないのに抗菌薬(抗生物質・合成抗菌薬)を服用すると、体内にいる細菌がその抗菌薬に対して耐性をもってしまうというものです。ウイルスが原因である風邪やインフルエンザに対する抗菌薬は、効果がないだけでなく、薬剤耐性の原因になるということで問題になり、処方しないようになっているはずです。(患者も要求してはいけません)
また処方された抗菌薬の服用量を減らしたり、処方されたものを全部服用しないといったように、指示通りに服用しないと、感受性菌はいなくなるけど耐性菌が生き残るということになったりします。
薬剤耐性の水平伝播では、耐性を持っていなかった別の細菌に耐性が伝達されて、その細菌も薬剤耐性となり、それが連鎖していくことがあります。院内感染の起炎菌として問題になっているメチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)もその例です。耐性菌に対して有効な新しい抗菌薬が開発され、さらにその抗菌薬に対する耐性菌が出てくるという連鎖があります。
多くの抗菌薬が効かなくなった細菌を「多剤耐性菌」と呼びます。
ウイルスにおいても、遺伝子の複製ミスによって耐性化につながる特性をもつものが生じ、これが薬剤で排除されずに耐性ウイルスとして確立してしまうことで、耐性ウイルスが出現しています。
既知の感染症を制圧することも達成できている訳ではなく、更に未知・新規の感染症も出てきている状況にあり、感染症との闘いはまだまだ終わりそうにありません。
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2023年05月12日
吉田 亜登美