ページの本文へ

Hitachi
お問い合わせお問い合わせ

株式会社日立医薬情報ソリューションズ

Column

感染症-ウイルスと抗ウイルス薬

「医薬」よもやまばなし

2023年04月10日

細菌と並んで、感染症を引き起こす厄介な病原体にウイルスがあります。ヒトを宿主とするウイルスは数百あるようですが、新たなウイルスの発見も続いています。
今回は、感染症のうち、ウイルスについてみてみましょう。

ウイルス

ウイルスは20~300nmほどの非常に小さい構造体です。大きさ1μm(1000nm)程度の原核生物である細菌よりも小さなものです。
ウイルスは細胞構造を持たず、核酸(DNAかRNAの一方)とタンパク質の殻のみでできています。
タンパク合成やエネルギー生成の場となる細胞構造がないため、単体では増殖能を持たず、宿主の細胞を利用して増殖します。つまり、宿主細胞の機構を利用して、核酸の複製とタンパク質の合成を行うことで、自己複製による増殖がなされるというものです。宿主の生物に依存するので、ウイルスは特定の生物にしか感染しない宿主特異性の傾向がみられます。
細菌が生物で自己増殖できるのに対し、ウイルスは非生物と生物の特徴を併せ持つ非生物と生物の間の存在といえます。

基本構造は、ウイルス核酸(DNA or RNA)とタンパク質の殻(カプシド)で、両者を合わせたものをヌクレオカプシドと呼びます。このヌクレオカプシドの外側を脂質二重膜(エンベロープ)に包まれたものもあります。ウイルスによってはエンベロープ上に糖タンパクのスパイクを持つものもあります。このスパイクタンパクは、宿主となる細胞への吸着・侵入、免疫機構回避に使われます。

ウイルスは、遺伝子(核酸)の型(DNA or RNA、一本鎖 or 二本鎖)や、カプシドの形状やエンベロープの有無といった形態等によって分類されます。

ウイルスの増殖プロセス

ウイルスが宿主であるヒトの体内に入って、増殖するプロセスは以下のようになります。

  • 吸着:宿主の細胞膜に付着する
  • 侵入:ヌクレオカプシド(核酸+カプシド)が細胞内に入り込む
  • 脱殻:ウイルス核酸がカプシドから離れる(ウイルス核酸を細胞内に送り込む)
  • ゲノムの複製・タンパク質の合成:細胞内に送り込まれた核酸を鋳型に、ウイルスゲノムを複製し、必要なタンパク質(カプシド等)を合成する
  • ウイルス粒子の組み立て:ウイルスゲノムとタンパク質(カプシド等)の部品を組み合わせる
  • 放出:作成(増殖)されたウイルス粒子が宿主細胞外へ出ていく

こうしてウイルスが体内で増殖され、結果として感染症を発症することになります。

抗ウイルス薬

ウイルスによる感染症に対する治療薬としては、ウイルスの増殖プロセスの特定箇所を阻害する「抗ウイルス薬」が用いられます。

抗ウイルス薬は抗菌薬に比べてウイルス選択性が高いものが多く、全てのウイルスに対して治療薬がある訳ではなく、個々のウイルスに対する抗ウイルス薬を開発することが必要です。

実用化された抗ウイルス薬も出てきていますが、抗ウイルス薬のないウイルス感染症では、病原体の排除策がないことになり、対症療法が中心となります。

また、化学療法としての抗ウイルス薬以外に、一部のウイルス感染症では、中和抗体薬も治療薬として使われます。

cloum_202304_picture_1.png

ちなみに、新型コロナウイルス感染症に対する抗ウイルス薬において、作用機序が「RNAポリメラーゼ阻害」とあるのは「核酸合成阻害」、「プロテアーゼ阻害」は「タンパク質合成阻害」に相当します。


◇ インフルエンザ

インフルエンザウイルスは、オルソミクソウイルス科に属する一本鎖RNAウイルスです。
ウイルス内部のタンパク質の抗原性の違いから、A型・B型・C型(及びヒトに対する病原性の不明なD型)に分類されますが、感染症としてのインフルエンザに関係するのは、A型とB型です。
A型・B型インフルエンザウイルスの表面(エンベロープ)には、赤血球凝集素(HA)とノイラミニダーゼ(NA)の2種類の糖タンパクがスパイク状に存在し、感染・増殖に大きな役割を示しています。HAはウイルスが細胞に吸着・侵入するために必要な構造であり、NAは細胞内で増殖したウイルスが細胞外へ遊離するために必要な構造です。
A型はHA16種、NA9種があり、計144種の亜型が存在します。尚、B型ではHA・NAは1種ずつです。
RNAウイルスであるインフルエンザウイルスは、DNAウイルスに比べて、複製ミスが起こりやすく、修復機構を持たないため、変異を起こしやすいという特徴があります。

  • 選択抗原変異:点突然変異(マイナーチェンジ) ⇒ 季節性インフルエンザ
  • 不連続抗原変異:遺伝子再集合による亜型(フルモデルチェンジ・・A型のみ) ⇒ 新型インフルエンザ
    * 遺伝子再集合・・インフルエンザウイルスのゲノム1セットは8本の異なるRNA分子から構成されており、2種類以上の異なるウイルスが1細胞に同時に感染すると、異なるウイルス起源のRNAが混在するハイブリッドなゲノムセットを持つ新たなウイルスができる。

インフルエンザは例年流行していますが、20世紀以降では以下のパンデミックが起きています。

  • 1918年 スペインかぜ H1N1型
  • 1957年 アジアかぜ H2N2型
  • 1968年 香港かぜ H3N2型
  • 1977年 ソ連かぜ H1N1型
  • 2009年 2009パンデミック H1N1型

ソ連かぜはスペインかぜの再出現とされますが、それ以外は新型インフルエンザです。


ウイルスの治療薬の作用点や選択性からくる難しさがあり、ウイルス自体が変異しやすいということもあり、ウイルスへの対応は細菌以上に困難さを伴います。



私たちの健康に大きな役割を担う医薬品、そして医療・ヘルスケア。
そうしたQOL(Quality Of Life)産業界全般にわたって、そのプロセスや情報を支えるITを介して、
日立医薬情報ソリューションズは人々の健康・QOL向上に貢献していきます。


2023年04月10日
吉田 亜登美

Contact Us