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株式会社日立医薬情報ソリューションズ

Column

感染症-細菌と抗菌薬・・こぼれ話

「医薬」よもやまばなし

2023年03月13日

細菌を病原体とする感染症においては、その原因の特定や治療が可能になってきています。
今回は、「細菌と抗菌薬」にまつわるこぼれ話を2題、お送りしましょう

細菌の発見

微生物の存在は、顕微鏡の発明によって確認されました。1674年、オランダのアントニ・ファン・レーウェンフックが自作の顕微鏡を用いて、水中で動き回る微生物を捉えたのが始まりです。
ただ、そういった生物が存在するというレベルに留まり、しばらくはそれ以上の進展をみていませんでした。

微生物と感染症の関係を明らかにしたのは、「細菌学の父」と称される19世紀のパスツールとコッホです。

フランスのルイ・パスツールは、発酵や腐敗の原因が微生物の存在によるものであることを解明しました。
肉汁の腐敗は空中(外気)から侵入した微生物によるものであり、生物の自然発生を認めないことを実験的に証明しました。
また、アルコール発酵が酵母によって起きること、酢酸発酵(醸造が上手くいかずに酸っぱくなること)が別の微生物(雑菌)によることを確認し、そこから、ワインや牛乳の腐敗を防ぐための低温殺菌法を開発しました。
更に、弱毒化した微生物を接種して病気を予防するワクチンを開発し、予防接種の概念を確立しました。

ドイツの医師、ロベルト・コッホは、食品の腐敗と同様の現象が体内で起こることが病気の原因ではないかと考えました。「感染症は病原菌によって起こる」(病原細菌説)において、実験的に病原体の存在を証明するための指針「コッホの原則」を提唱しました。

  • 病巣には特定の微生物(病原菌)が存在し、その病気に罹患していない場合はその微生物(病原菌)は存在しない
  • 病巣にある微生物(病原菌)を分離できる
  • 病巣から分離した微生物(病原菌)を感受性のある動物に感染させると、病気が再現できる
  • 病気を再現した動物から、元の微生物(病原菌)が分離できる

この原則を満たせば病原体の証明になるというもので、この原則に則って、様々な病原細菌が発見され、感染症研究は大きく進展しました。

一方で、微生物(病原菌)の分離が上手くいかない感染症が出てきます。ここでは、細菌を濾過して除去した液体に病原性が認められました。つまり、病原体である細菌は分離されず、細菌ではない病原体が存在したことになります。
これがウイルスの発見に繋がるのです。ちなみに、ウイルスは普通の顕微鏡(光学顕微鏡)では見ることはできません。現在、見ているウイルスの写真は電子顕微鏡で撮影されたものです。

抗菌薬の歴史

抗菌薬(抗細菌薬)は20世紀になってから開発されたものです。

感染症の原因が病原性の微生物であると解明されたことから、原因である微生物を取り除くことができれば感染症を治療できることになります。つまり、その微生物だけに毒性を持つ物質(選択毒性の概念)が治療薬となるということです。
このように狙ったものだけに命中するということから、「魔法の弾丸」と呼ばれました。ちなみに、この表現は、歌劇「魔弾の射手」(ウェーバー作曲)にちなんだものです。

ドイツのパウル・エールリッヒは、この考えに基づく化学療法の創始者とされます。

世界初の抗菌薬は、1910年にエールリッヒと秦佐八郎によって開発された、梅毒に有効なサルバルサン(アニリン色素をもとに合成した有機ヒ素化合物)です。ただサルバルサンは毒性の強いヒ素を含む化合物で、副作用が強いため、現在は使用されていません。

次に開発されたのは、サルファ剤(スルホンアミド基を持つ合成抗菌薬)です。1932年の染料のプロントジル(赤色の色素)が連鎖球菌に有効であるという発見に続き、同様の構造を持つサルファ剤が開発されました。

1928年にイギリスのフレミングによって発見されたペニシリンは、菌の培養中にアオカビが混入するという実験の失敗によって偶然見出されたものです。その後、1942年になって実用化されました。
ペニシリンはβラクタム環と呼ばれる構造を有しています。これを起源として、隣接する構造を変化させた種々のβラクタム系抗生物質が開発されました。

1943年には結核治療薬のストレプトマイシン、1948年にはテトラサイクリン系抗生物質、1949年にはクロラムフェニコール系抗生物質やアミノグリコシド系抗生物質、1952年にはマクロライド系抗生物質というように、種々の抗生物質が開発されました。

当初は自然界に存在するものに由来する抗菌薬が中心でしたが、キノロン系抗菌薬のように人工的に設計されて合成された抗菌薬も開発されるようになりました。

こうして、種々の構造・作用機序を持つ抗菌薬が開発され、細菌性感染症の治療薬として使われるようになったのでした。


◇ 抗菌薬と抗生物質

細菌性感染症の治療薬は、抗細菌作用を持つということから「抗菌薬(抗細菌薬)」と呼ばれます。
「抗生物質」というのは、自然界に存在するもの、言い換えると、微生物によってつくられた物質で、抗細菌作用を持つ物質を指します。またこの構造を変化させて合成された物質も抗生物質に含まれます。
抗菌薬には、完全に人工的に合成された物質もあります。つまり、

抗菌薬=抗生物質(微生物由来の抗細菌薬)+合成抗菌薬(人工合成された抗細菌薬)

となります。



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2023年03月13日
吉田 亜登美

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