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株式会社日立医薬情報ソリューションズ

Column

感染症-細菌と抗菌薬

「医薬」よもやまばなし

2023年02月10日

感染症を引き起こす病原体として、特に細菌は多種のものが知られています。地球上には数百万種の細菌が存在するとの推定があるようですが、その中で特定されているものは30000種、ヒトに対する病原性を持つものも500種以上知られています。
今回は、感染症のうち、細菌についてみてみましょう。

細菌

細菌は大きさ1μm程度の単細胞生物です。
細胞壁を持ち、核膜を持たない原核生物です。動植物などの真核生物の細胞では、核膜に包まれた細胞核が存在してその中に染色体DNAがあるのですが、原核生物では染色体DNAが核膜に包まれずに存在している形になります。
細菌は単体で増殖能を持っており、この点はウイルスと大きく異なります。
細菌の基本構造としては、リボソーム、核様体、細胞壁、細胞膜、細胞質があります。
細菌によっては、莢膜、芽胞、線毛、鞭毛などの特殊な付属器官(オプション構造)を持つものもあります。

  • リボソーム:タンパク合成(mRNAを翻訳してアミノ酸を連結することでタンパクを生成)
  • 核様体:核膜に包まれていない染色体DNA(真核生物の細胞核では染色体DNAは核膜に包まれている)
  • 細胞壁:細胞の形状決定、細胞内の保護・細胞内外の物質の流通等(動物細胞には存在しない)
  • 細胞膜:細胞質を包み、細胞の内外を隔てる生体膜
  • 細胞質:細胞膜で囲まれた原形質(真核生物では細胞核以外の領域)

細菌の種類

細菌の形態としては、基本的に球菌、桿菌、らせん菌に分類されます。

  • 球菌:球状の細菌で、通常単体ではなく複数の菌が集まった形態をとる。ブドウ球菌、レンサ球菌、肺炎球菌など。
  • 桿菌:桿状(棒状)の細菌で、大きさは様々、単体で存在するものが多い。大腸菌や炭疽菌、破傷風菌やジフテリア菌など多くのものがある。
  • らせん菌:螺旋状の細菌。コレラ菌やヘリコバクターピロリ、スピロヘータなど。

細菌の増殖における酸素の必要性の面からは、好気性菌、通性菌、嫌気性菌に分類されます。

  • 好気性菌:酸素存在下でないと増殖・生存できない。結核菌、百日咳菌、緑膿菌など。
  • 通性菌:酸素の有無にかかわらず増殖可能だが、酸素存在下の方が増殖しやすい。大腸菌、ブドウ球菌など。
  • 嫌気性菌:酸素存在下では増殖・生存できない。破傷風菌、ボツリヌス菌など。

また、細胞壁の構造の違いにより、グラム陽性菌とグラム陰性菌に大別されます。これは細菌を色素で染色するグラム染色に行った場合に反応が異なり、その色で区別できるものです。
グラム陽性菌の細胞壁はペプチドと糖からなるペプチドグリカン層ですが、グラム陰性菌ではペプチドグリカン層は薄く、リポ多糖体とリン脂質から構成される外膜があります。

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抗菌薬(抗細菌薬)

細菌による感染症に対する治療薬としては、細菌を殺滅させる、ないし増殖抑制する「抗菌薬」が用いられます。

抗菌薬は、殺菌作用を持つものと静菌作用を持つものに大別されます。尚、「抗菌」という用語はこの作用両方を包含します。

  • 殺菌作用:細菌を殺滅させる。生菌数が減少する。
  • 静菌作用:細菌の増殖を抑制する。生菌数は減少しない。

抗菌薬は作用機序によって、以下のように分類されます。

  • 細胞壁合成阻害薬
    細菌細胞に特異的な細胞壁の主成分であるペプチドグリカン層の合成を阻害する。細胞壁が崩れると細菌は浸透圧に耐えられず破裂する(溶菌)。細胞壁はヒトの細胞には存在せず、細菌の生存に必要なもののため、本薬剤は細菌のみに作用する。
  • 核酸合成阻害薬
    細菌の核酸(DNA/RNA)合成を阻害することにより細菌は分裂できない。細菌の分裂時に行われるDNAの合成(複製)を阻害するキノロン系や、タンパク質合成の際に行われるRNAの合成(転写)を阻害する抗結核薬がある。DNA合成阻害では細菌のⅡ型トポイソメラーゼに作用するが、ヒトのⅡ型トポイソメラーゼは構造が異なるため、ヒトの細胞には作用しにくい。
  • 細胞膜機能障害薬
    細胞膜に結合し、その機能(物質の輸送、エネルギー産生等)を阻害する。細胞膜はヒトにも存在するため、選択毒性が低く、他の抗菌薬に比べて副作用が生じやすい。薬剤耐性菌感染症に対する最終手段。
  • タンパク質合成阻害薬
    細菌の増殖に不可欠なタンパク質の合成を阻害する。タンパク質が合成されないと細菌は増殖できない。細胞のリボソームに作用するが、ヒトのリボソームとは異なるため、ヒトの細胞には作用しにくい。
  • 葉酸合成阻害薬
    DNAの材料(ヌクレオチド)やアミノ酸を合成する際に補酵素として働く葉酸の合成経路を阻害する。DNA合成(複製)やアミノ酸合成が阻害されるため、細菌は増殖できない。細菌の葉酸合成酵素に作用するが、ヒトは葉酸を合成せずに食物から摂取するため、ヒトの細胞には作用しにくい。

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抗菌薬の作用の強さを「活性(抗菌活性)」と言い、ある抗菌薬が抗菌活性を有する微生物の範囲を「抗菌スペクトル」と言います。このスペクトルは有効な対象を示すもので、抗菌活性の強さとは関係しません。

原因菌が不明または特定に時間を要するといった場合には、主に広域スペクトルを有する抗菌薬が使用されます。原因菌が判明すると、適切な抗菌薬(主に狭域スペクトルの抗菌薬)へと変更します。


種々の抗菌薬が実用化されており、感染症の原因や状況に応じて適切な薬剤が使用されます。


かなりの種類の病原性のある細菌が明らかとなり、それへの対応が確立されてきています。


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2023年02月10日
吉田 亜登美

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