ページの本文へ

Hitachi
お問い合わせお問い合わせ

株式会社日立医薬情報ソリューションズ

Column

感染症-概略その2

「医薬」よもやまばなし

2023年01月12日

古くて新しい病気である感染症の概略について、前回の感染・病原体に引き続き、今回は、検査と治療をみてみましょう。

検査

病原体を同定するための微生物学的検査として、以下の検査があります。

  • 培養検査:患者から得られた検体に存在する原因微生物(細菌・真菌)を発育・増殖させ、分離・同定する。
  • 顕微鏡検査:細菌・真菌、原虫は光学顕微鏡で観察が可能。微生物ごとに適した染色法を用いる。
  • 遺伝子検査(分子生物学的検査):検体中の病原体の遺伝子を増幅し、検出する。
  • 免疫学的検査:抗原抗体反応を用いて、検体中の抗原や抗体を検出する。

ウイルス検査としては、遺伝子検査や免疫学的検査が用いられます。

遺伝子検査としては、PCR検査が挙げられます。PCRというのは、ポリメラーゼ連鎖反応(Polymerase Chain Reaction)のことで、病原体の遺伝情報を持つDNAの一部を複製・増幅させる方法です。
ウイルスでは核酸としてDNAまたはRNAの一方を持ちます。RNAはPCRでは増やせないので、新型コロナウイルスのようにRNAを持つウイルスでは、ウイルスのRNAからコピーした一本鎖DNAを作成する必要があります。検体から抽出したRNAよりDNAを作成し、ここに検査対象のウイルスに特化したプライマー(増殖させたい配列を持つ合成DNA)を入れて、ポリメラーゼ(核酸ポリマー・長鎖を合成する酵素)によって、プライマーの結合したDNAを繋いで二本鎖DNAを形成していきます。ウイルス特化プライマーに対応する配列があってDNAが増えていれば、そのウイルスに対して「陽性」ということになります。

抗原抗体反応を利用する免疫学的検査としては、抗原検査と抗体検査があります。
抗原検査では、抗体を用いて検体中の病原体がもつ特有のタンパク(抗原)を検出します。これにより、現在、病原体に感染しているかどうかがわかります。
抗体検査では、抗原を用いて検体中の病原体に対する抗体を検出します。これにより、過去に病原体に感染したか、あるいはワクチン接種のいずれかによって、体内に抗体があるかどうかがわかります。

治療

感染症に対する治療の選択肢としては、以下があります。

  • 化学療法:薬剤投与により、病原体の殺滅や増殖抑制を行う。 ・・抗菌薬、抗ウイルス薬、抗真菌薬、抗原虫薬
  • 血清療法:抗体注射により、発症予防や軽症化させる。 ・・抗破傷風ヒト免疫グロブリン、抗HBs(B型肝炎ウイルス)ヒト免疫グロブリン等
  • 対症療法:症状の緩和を目的とする(病因そのものには作用しない)。 ・・解熱・鎮痛薬、輸液等
  • 一般療法:回復を助けるために行う。 ・・安静、睡眠、栄養補給や水分補給等

感染後どうなる?

感染症の典型的な経過としては、感染 ⇒ 潜伏期 ⇒ 発症 ⇒ 治癒となりますが、感染後の微生物(細菌・ウイルス)とヒト(宿主)の関係をもう少しみてみると、以下のようなパターンがあります。

  • 宿主が微生物の攻撃で敗北して死滅する
    致死率の高いラッサ熱やエボラ出血熱などが該当する。
    脅威ではあるが、微生物もほかの宿主に移らなければ宿主と共に死滅する。結果的に、局地的・短期的な感染にとどまることも多い。
  • 宿主側の攻撃が功を奏して、微生物が敗北して絶滅する
    自然治癒に加えて、ワクチンや治療薬が存在し、予防や治療が可能な感染症といえる。
    天然痘、ハンセン病やポリオ、黄熱など。
  • 宿主と微生物が和平関係を築く
    大腸菌や乳酸菌、酪酸菌等、ヒトにとって欠かせない共存関係となった常在菌も多い。通常は異常ないが、宿主の免疫が低下した場合等に感染症を引き起こす「日和見菌」も存在する。
  • 微生物が宿主に潜伏し、隙をみて攻撃を仕掛ける
    症状が治まっても、ストレスや疲労、妊娠や免疫力低下等を契機に再感染する。ヘルペスウイルスが代表的で、口唇ヘルペスのように再発を繰り返すもの、水痘(水疱瘡)の罹患者が後に帯状疱疹を発症するといったものがある。

感染症の感染に対応するには、病原体の正体を特定し、それに対する適切な治療を選択することが重要となります。


◇ スクリーニング検査の妥当性(精度)

ある疾患に罹っているかどうかを調べるスクリーニング検査において、その妥当性(精度)の評価に以下の指標が使われます。

  • 感度:感染している人を正しく陽性と判定する確率
     ・・a / (a+c) ~疾患あり・陽性/疾患あり
  • 特異度:感染していない人を正しく陰性と判定する確率
     ・・d / (b+d) ~疾患なし・陰性/疾患なし
  • 陽性的中率:陽性と判定された人の中で実際に感染している人の比率
     ・・a / (a+b)
  • 陰性的中率:陰性と判定された人の中で実際に感染していない人の比率
     ・・d / (c+d)

*有病率の低い集団では陽性的中率は低下し、陰性的中率は高くなる

尚、陽性率というのは、検査数に対する陽性数を示しています。陽性数と陽性率の動向を合わせて見ることで、検査の充足度と流行の状況を把握することはできますが、陽性率自体は検査の精度とは関係しません。 ・・陽性率=(a+b) / (a+b+c+d)

罹患している
罹患していない
検査陽性
a b(偽陽性) a+b
検査陰性
c(偽陰性) d c+d
a+c b+d a+b+c+d

私たちの健康に大きな役割を担う医薬品、そして医療・ヘルスケア。
そうしたQOL(Quality Of Life)産業界全般にわたって、そのプロセスや情報を支えるITを介して、
日立医薬情報ソリューションズは人々の健康・QOL向上に貢献していきます。


2023年01月12日
吉田 亜登美

Contact Us