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株式会社日立医薬情報ソリューションズ

Column

がんと免疫

「医薬」よもやまばなし

2022年11月10日

「がん」は免疫系の病気という訳ではありませんが、その発症や治療には関連があります。
今回は、このがんと免疫の関係についてみていくことにしましょう。

がんの発症と免疫

免疫には異常細胞を排除する働きがあります。変異した異常細胞であるがん細胞を免疫が監視・排除し、これによってがんの発生を防いでいると考えられています。
ここでは、自然免疫及び獲得免疫の両方が働いています。

  • 自然免疫
    マクロファージ・NK細胞による非特異的な細胞破壊
  • 獲得免疫
    細胞傷害性T細胞によるがん抗原(腫瘍関連抗原)に特異的な細胞破壊

自然免疫では、NK細胞(ナチュラルキラー細胞)が中心となって働きます。

  • NK細胞が標的細胞を直接攻撃する
  • NK細胞がサイトカインを産生してマクロファージやT細胞を活性化し、活性化されたマクロファージやT細胞ががん細胞を攻撃する

獲得免疫では、がん細胞が傷害を受けたり、壊死したりした場合に、がん細胞の目印になるがん抗原が放出され、これを抗原提示細胞が免疫細胞に対して抗原と認識させることで、細胞傷害性T細胞ががん抗原を発現しているがん細胞を認識して攻撃・排除します。

少しくらい異常細胞が発生しても、この免疫の働きによりがんの発症には至りませんが、異常細胞が排除されずに異常増殖すると腫瘍となり、がんを発症することになります。

腫瘍の発生の要因としては、免疫低下と免疫回避が考えられます。

  • 免疫低下に伴う腫瘍の発生
    免疫不全、老化などによる免疫能の低下
  • 免疫回避による腫瘍の発生
    腫瘍関連抗原の表出低下、免疫抑制物質の産生、免疫寛容の誘導

がん細胞は免疫を回避する様々な手段を持っていると考えられています。
特に、免疫寛容の誘導に関しては、薬物療法のターゲットになっています。
免疫寛容というのは、特定の抗原に対して免疫反応を起こさなくなることを言います。
免疫には、過剰な免疫反応を抑制する仕組みがあります。
免疫チェックポイント分子(CTLA-4やPD-1など)は、T細胞表面に発現し、T細胞の活性化を抑制するフィードバック機構として過剰な免疫応答を抑制する働きをします。
がん細胞はこの仕組みを悪用し、免疫チェックポイント分子を発現・利用することで免疫細胞からの攻撃を回避しています。

ヒトでは、1日に相当数(数千個と言われる)のがん細胞が発生しているとされますが、通常は免疫機能により排除されます。ところが、免疫反応を回避してがん細胞が増殖すると、がんを発症してしまいます。
免疫ががんを抑制する一方、がんは免疫を回避する機能を持っているのです。

がん免疫療法

がんが免疫を回避して発生しているのであれば、免疫がしっかり働くようにしてがんを治療するという考えが成り立ちます。
免疫の仕組みを利用して、がんに対する免疫応答をコントロールする治療法ががん免疫療法です。

がん免疫療法には、免疫ががんを攻撃する働きをパワーアップさせる(アクセルを強める)方法と、がん細胞が免疫をすり抜ける仕組みをブロックする(ブレーキがかかるのを防ぐ)方法が効果的と考えられています。

免疫療法薬としては、いくつかの種類があります。

  • 免疫チェックポイント阻害薬
    体内の免疫の活性化を持続させる(ブレーキがかかるのを防ぐ)
  • エフェクターT細胞療法(遺伝子改変T細胞療法:CAR-T療法など)
    体外に取り出して遺伝子改変で増強したT細胞を体内に入れることで攻撃性を高める(アクセルを強める)
  • サイトカイン療法及び免疫賦活薬
    体内の免疫を強める(アクセルを強める)

免疫チェックポイント阻害薬は、免疫応答抑制に関わる免疫チェックポイント分子の発現・利用による免疫回避に対し、免疫抑制シグナル伝達のブロックにより阻害します。その結果、T細胞の活性は抑制されず、がん細胞に対する免疫反応が維持されます。
免疫チェックポイント分子にはいろいろな種類がありますが、現在、がん治療薬として用いられているのは以下の抗体薬です。

  • 抗PD-1抗体
    T細胞表面のPD-1に結合
  • 抗PD-L1抗体
    T細胞表面のPD-1に結合するがん細胞表面のPD-L1に結合
  • 抗CTLA-4抗体
    T細胞/制御性T細胞表面のCTLA-4に結合
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CAR-T療法では、患者自身の末梢血からT細胞を採取し、これにがん細胞上の標的分子を認識する抗原受容体(CAR)を遺伝子改変により発現させます。このCAR-T細胞を増殖させて、患者に投与することにより、標的となるがん細胞を特異的に攻撃します。
これは医薬品ではなく、再生医療等製品です。

また、2020年に世界に先駆けて日本で条件付き承認を取得した「光免疫療法」は、抗体薬物複合体(ADC)で、薬剤は光感受性物質です。特有のがん細胞を抗体部分が認識して結合し、薬剤ががんに集まったところで近赤外線を照射すると、光感受性物質が光化学反応を起こしてがん細胞を破壊します。
破壊されたがん細胞が抗原となって、これに対する免疫が活性化されることで、同種がん細胞への傷害が期待されるものです。


このように、がんの発症や治療には免疫が深く関わっていることが明らかになってきています。

私たちの健康に大きな役割を担う医薬品、そして医療・ヘルスケア。
そうしたQOL(Quality Of Life)産業界全般にわたって、そのプロセスや情報を支えるITを介して、
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2022年11月10日
吉田 亜登美

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