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株式会社日立医薬情報ソリューションズ

Column

続・抗体医薬品

「医薬」よもやまばなし

2022年10月07日

免疫は自己にとっての異物を判別して排除するという生体に備わった自己防御の仕組みです。
前回は、「免疫の仕組みを使ったくすり」として、抗体医薬品についてその概要をみてみました。
今回は、抗体医薬品にどういうものがあるかについてみてみましょう。

感染症に対する抗体医薬品

新型コロナウイルス感染症(COVID-19)に対する治療薬として承認されたものがあります。標的とするウイルスのスパイクタンパクに対して抗体が結合することにより、ウイルスが細胞の表面に付着するのをブロックし、ウイルスを無力化します。これは抗体の中和作用によるもので、ウイルスに対する中和抗体となります。

自己免疫疾患に対する抗体医薬品

自己免疫疾患は、自己成分が抗原となって自己抗体を産生してしまい、過剰な免疫反応によって生体組織が傷害を受けるものです。
この過剰な免疫反応に関与する炎症性サイトカインの作用を抑制する抗体医薬品が、自己免疫疾患である関節リウマチ等の治療薬となっています。標的となる炎症性サイトカインとしては、IL-6(インターロイキン6)やTNFα(腫瘍壊死因子α)があります。

  • IL-6受容体阻害
    IL-6受容体阻害薬は自己細胞のIL-6受容体に結合することで、IL-6が受容体に結合するのを競合的に阻害し、IL-6の作用を抑制する。
  • TNFα阻害
    TNFα阻害薬は放出されたTNFαに結合することで、デコイ受容体(結合するがシグナルは伝達しない)として働き、TNFαの自己細胞に対する作用を抑制する。

がんに対する分子標的薬としての抗体医薬品

がん治療薬としての抗体医薬品にはいくつかのタイプがあります。

がん細胞を直接標的とする抗体医薬品では、がん細胞表面の特有タンパクを抗原として認識します。
この特有タンパクが細胞増殖のシグナル伝達のための受容体の場合、この受容体に細胞外でリガンド(増殖因子)が結合すると細胞増殖が起こります。がん細胞ではこの受容体が過剰発現しており、この受容体に抗体薬が結合することで、リガンドが結合できずに細胞内における細胞増殖のシグナル伝達が阻害され、細胞増殖が抑制されます。

  • がん細胞のがん増殖シグナル受容体へ抗体薬が結合⇨がん細胞増殖を促進する分子(リガンド)のがん細胞の受容体への結合を阻害⇨細胞増殖シグナル伝達阻害⇨がん細胞増殖阻害

また、直接的な細胞増殖抑制ではなく、がん細胞を識別するために特有タンパクに結合する抗体薬もあります。
がん細胞表面に発現したがん細胞特有のタンパクに抗体薬が結合することで、抗体依存性細胞傷害や補体依存性細胞傷害を誘導し、これによってがん細胞が攻撃されます。

  • 抗体依存性細胞傷害作用(ADCC)
    がん細胞に抗体薬が結合⇨免疫細胞(NK細胞やマクロファージなど)に抗体を認識させる⇨がん細胞を傷害⇨抗腫瘍効果
  • 補体依存性細胞傷害(CDC)
    がん細胞に抗体薬が結合⇨補体を活性化⇨がん細胞を傷害⇨抗腫瘍効果

がん細胞への輸送を抗体が担う抗体医薬品では、抗体部分ががん細胞の特有タンパクに結合することによってがん細胞を識別するのですが、実際のがん細胞への攻撃はこの抗体に結合した薬物が担います。これは抗体薬物複合体(ADC)と呼ばれるものです。

  • 抗体薬物複合体(ADC)
    がん細胞表面の特有タンパクを抗体が認識⇨がん細胞に抗体部分が結合⇨がん細胞内に薬物が到達⇨がん細胞を傷害⇨抗腫瘍効果

がん細胞自体ではなく、がん細胞の周囲の組織に対する抗体医薬品もあります。
がん増殖には栄養素や酸素が必要ですが、がん細胞はその経路として新たな血管を構築しようとします。がん細胞は血管新生のためにリガンド(がん増殖因子である血管新生因子)を放出し、がん周辺組織の細胞膜にある受容体に結合すると血管新生が起こります。抗体薬にはリガンドに結合するものと受容体に結合するものがあり、リガンドと受容体の結合を阻害することによって、この血管新生を阻害します。これにより、がんを兵糧攻めにします。

  • 血管新生因子またはその受容体へ抗体薬が結合⇨血管新生を促進するリガンド(血管新生因子)とがん周辺組織の細胞の受容体の結合を阻害⇨がん細胞増殖に必要な栄養・酸素を供給する血管新生を阻害⇨がん細胞に供給される栄養・酸素が枯渇

免疫には、過剰な免疫反応を抑制する仕組みとして、免疫抑制機能を持つ免疫チェックポイント分子による機構を備えています。がん細胞はこの免疫チェックポイント分子の発現・利用による免疫回避を行います。これに対する免疫チェックポイント阻害薬は、がん細胞への免疫応答を高める抗体医薬品です。

  • がん細胞の免疫チェックポイント分子発現・利用による免疫回避⇨免疫チェックポイント分子を標的とする抗体薬によって免疫抑制を阻害⇨がん細胞に対する免疫応答が高まる⇨抗腫瘍効果

◇抗体薬物複合体(ADC)
抗体薬物複合体(ADC)は、抗体にリンカーと呼ばれる部分を介して、薬剤(化学療法剤など)であるペイロードを共有結合したものです。
ADCにおける抗体は、標的を認識して薬剤を標的細胞に届ける役割を担い、薬効はペイロードが発揮します。その意味では、抗体を利用したドラッグデリバリーシステム(DDS)の一種ということができます。

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2022年10月07日
吉田 亜登美

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