免疫が正常でないことによって起こる病気や身体の異常、免疫反応としては正常だけれど治療等に不都合がある場合には、免疫反応を何等か制御する必要があります。
今回は、免疫系に作用する薬の概要についてみてみましょう。
免疫能を活性化する免疫刺激薬としては、抗腫瘍免疫能、感染防御免疫能の増強などに用いられるサイトカイン製剤や免疫グロブリン製剤があります。
サイトカインの一種であるインターロイキン2(IL-2)を製剤化したインターロイキン2製剤は、抗原非特異的免疫(自然免疫)及び抗原特異的免疫(獲得免疫)の両方を増強させる作用を持ちます。NK細胞やT細胞などを活性化させることで、細胞障害性が高まり、免疫作用が増強します。腫瘍細胞を傷害する抗腫瘍作用も強くなります。
同様に、サイトカインのインターフェロンを製剤化したインターフェロン(IFN)製剤は、抗ウイルス作用、抗腫瘍作用、及び非特異的な免疫増強作用を示します。
免疫グロブリンは抗体の機能を持つタンパクです。免疫グロブリン製剤には、多種類の抗体を含む非特異的免疫グロブリン製剤と特定の抗原に対する抗体を含む特異的免疫グロブリン製剤があります。
非特異的免疫グロブリン製剤は、主に免疫不全症や重症感染症、自己免疫疾患に用いられます。
特異的免疫グロブリン製剤には、破傷風の発症予防・治療に用いる抗破傷風ヒト免疫グロブリン、B型肝炎の予防に用いられる抗HBsヒト免疫グロブリン(HBs抗原はB型肝炎ウイルス表面抗原)、新生児溶血性疾患(Rh不適合妊娠)の予防に用いられる抗Dヒト免疫グロブリンがあります。
また、原発性免疫不全症の原因療法として造血幹細胞移植が行われることもあります。
免疫不全によって、病原体への感染において反復・難治性・重症化などが起こる易感染性が問題となるため、感染症への対応として抗菌薬や抗ウイルス薬が投与されることもあります。
免疫抑制薬は、免疫系の体内の過剰な免疫反応を抑えるものです。
主に、関節リウマチをはじめとする膠原病といった自己免疫疾患や移植時の拒絶反応抑制に対して用いられます。
免疫抑制薬はリンパ球(特にT細胞系)の増殖・活性化を阻害することで過剰な免疫反応を抑制するのですが、一方で免疫抑制に伴って病原体に対する抵抗性も低下してしまいます。そのため、感染症に対する易感染性がみられますので、感染症の予防が重要となります。
免疫抑制薬としては、免疫のメカニズムのなかの種々の作用点に対して作用する、異なる機序を持つ薬剤があります。代表的なものとしては以下が挙げられます。
尚、アレルギーというのは、免疫反応が過剰に起きて、生体を守るはずが生体を傷つけてしまうものですが、いわゆる「抗アレルギー薬」と呼ばれるものは、主にⅠ型アレルギーによる症状を抑える薬であって、根治させる薬でありません。Ⅰ型以外では、副腎皮質ステロイドや免疫抑制薬が用いられます。
◇ 移植医療と免疫
移植医療としては、臓器移植と造血幹細胞移植が挙げられます。
臓器移植には、ドナー(臓器提供者)の状態により、生体間臓器移植と脳死後・心停止後臓器移植があります。
造血幹細胞移植では、どこにある造血幹細胞が移植の対象になるかによって、骨髄移植、臍帯血移植、末梢血幹細胞移植があります。
臓器移植においては、レシピエント(移植を受ける患者:宿主)の免疫系がドナー由来の細胞(臓器:移植片)を非自己と認識して攻撃する拒絶反応(宿主対移植片反応)が問題となります。この予防のために、術前・術後に免疫抑制薬を投与しますが、移植後3ヶ月以内に起きることの多い急性拒絶反応が起きた場合には、ステロイドパルス療法(あるインターバルで複数回投与する)や免疫抑制薬の増量・追加・変更で多くは回復します。
移植後数ヶ月以上かけて移植片が徐々に機能低下する慢性拒絶反応では、ステロイドパルス療法等では改善せず、多くは移植臓器を摘出することになります。
造血器腫瘍(血液がん)や再生不良性貧血などの治療に用いられる造血幹細胞移植では、ドナー由来のリンパ球がレシピエント(宿主)の細胞を非自己と認識して攻撃する移植片対宿主病(GVHD)が問題となります。
造血幹細胞移植においても、この予防のために、術前・術後に免疫抑制薬を投与します。主に移植後100日以内に起こる急性GVHDが起きた場合には、ステロイドを投与することで多くは軽快しますが、ステロイド抵抗性の場合には予後不良となります。また移植後100日以降に起こる慢性GVHDでは、移植された造血幹細胞が生着して分化・成熟したリンパ球がレシピエントの組織を攻撃すると考えられ、免疫抑制薬やステロイドを投与しますが、長引くことが多く、QOL(Quality
of Life)に影響します。
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2022年08月05日
吉田 亜登美