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株式会社日立医薬情報ソリューションズ

Column

免疫の話

「医薬」よもやまばなし

2022年05月17日

免疫は人体に備わった自己防御の仕組みです。病気の予防や発症、そして治療にも関わっています。
今回は、この免疫について基本的な事項からみていくことにしましょう。

免疫と免疫反応の概略

「免疫」は人体(自己)にとって異物である「非自己」を判別して排除する生体に備わった仕組みです。ここで、非自己と判断され、免疫反応を引き起こすものを「抗原」といいます。

正常な免疫反応としては、

  • 外来の物質に対する免疫:体外から侵入しようとする病原体や異物の排除、拒絶反応、罹患やワクチン接種による免疫獲得
  • 自己由来の物質に対する免疫:異常細胞の排除や老廃組織の除去

逆に免疫の異常反応としては、

  • 外来の物質に対する免疫:異物への過剰反応であるアレルギー、免疫低下・不全による易感染性
  • 自己由来の物質に対する免疫:正常細胞を異物と認識する自己免疫疾患、異常細胞に対する免疫低下による悪性腫瘍

免疫系では、役割の異なる免疫細胞、免疫に関わる物質、リンパ器官などによって構成されています。

免疫には、先天的に備わっている「自然免疫」と、後天的に獲得する「獲得免疫」があります。
自然免疫は、一次防御として異物を大まかに非自己と判断して即時的に排除する反応で、作用発現の早い非特異的反応です。
一方、獲得免疫は自然免疫に引き続いて起こるもので、特定の抗原に対応して異物を排除する仕組みです。作用発現は遅いけれど、より精密で強力な特異的反応です。 自然免疫と獲得免疫は相互に協調・活性化し合うことで、免疫が機能しています。

免疫細胞の種類と働き

免疫では、異なる役割を持ついろいろな免疫細胞が連携して機能しています。

免疫細胞は、骨髄内の造血幹細胞から分化したものです。血液(末梢血)中にある白血球、末梢組織にある肥満細胞(マストセル)・マクロファージ・樹状細胞があります。

白血球は、単球、リンパ球、顆粒球から構成されます。
顆粒球は更に好塩基球・好酸球・好中球に分類されます。好塩基球と好酸球は寄生虫の排除及びアレルギーへの関与、好塩基球は更に炎症反応への関与、好中球は感染・炎症部位への遊走及び細菌の貪食・殺菌を担っています。
*貪食・・体内の細胞が不要なものを取り込み、消化・分解する作用

単球は、血管内から組織に移行して、マクロファージや樹状細胞に分化します。

リンパ球は、B細胞・T細胞・NK(ナチュラルキラー)細胞に大別されます。
NK細胞は常に体内をパトロールしており、異物を発見すると単独で攻撃を仕掛けます(非特異的破壊)。
B細胞は特異的な抗原を認識して活性化し、形質細胞へと分化して抗体を産生します。最初の感作(抗原が体内に入ること)では抗体産生は緩やかですが、2回目以降の感作では抗原記憶によって大量の抗体が速やかに産生されます。
T細胞は獲得免疫の中心的役割を担います。T細胞は、細胞傷害性T細胞、ヘルパーT細胞、制御性T細胞などに分けられます。

  • 細胞傷害性T細胞 (キラーT細胞):樹状細胞から抗原情報を受け取り、活性化・増殖して、ウイルスに感染した細胞やがん細胞等の標的細胞を特異的に認識して破壊する(特異的破壊)。
  • ヘルパーT細胞:樹状細胞やマクロファージから異物(抗原)の情報を受け取り、免疫細胞の活性化や抗体産生誘導を行う(獲得免疫の司令塔)。
  • 制御性T細胞(レギュラトリーT細胞):過度な免疫反応の抑制や特定抗原への免疫寛容(免疫反応の抑制)といった、他の免疫細胞に対する制御を行う。

樹状細胞は外気に触れる鼻腔・肺・胃・腸管・皮膚等に存在する細胞で、枝のような突起(樹状突起)を周囲に伸ばす形態が特徴です。異物を細胞内に取り込み、その異物(抗原)の特徴を他の免疫細胞に伝える働き(抗原提示能)を持ちます。異物の情報を知らせる監視役と言えます。
マクロファージはアメーバ状の細胞で、強い貪食・殺菌作用(異物の消化・処理)、抗原提示等の作用を持ちます。
肥満細胞(マストセル)は、炎症の惹起やアレルギーに関与します。

免疫系に関わる物質

抗体(免疫グロブリン)はB細胞が分化した形質細胞によって産生され、抗原と特異的に結合することにより、様々な免疫反応を引き起こすものです。獲得免疫の主役の一つです。

抗体は、2本のH鎖(Heavy Chain)とL鎖(Light Chain)から構成されるY字形の構造をしていて、抗原の結合部位となるFab領域と、免疫細胞などと結合するFc領域に分けられます。
Fab領域の先端側が可変領域となっていて、特定の抗原を認識して抗原結合部位となります。ひとつの抗体はある特定の抗原のみを認識しますが、抗体によって可変領域が異なることで様々な抗原と結合できる種々の抗体がつくられます。

抗体の構造

補体は、生体が異物を排除する際に、抗体や貪食細胞(マクロファージや好中球)を補助する免疫システムを構成するタンパク質です。

サイトカインは様々な刺激によって免疫細胞などから産生されるタンパク質です。細胞間の情報伝達作用を持ち、特異的な受容体に結合することで、免疫反応の増強・制御、細胞増殖・分化の調節などを行います。またサイトカイン間の相互作用もあります。
免疫反応の制御が利かず、サイトカインが大量に放出されて過剰な免疫反応が起きる状態をサイトカインストーム(免疫暴走)と言います。


免疫のメカニズムについては、次回、お話ししたいと思います。


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2022年05月17日
吉田 亜登美

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