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株式会社日立医薬情報ソリューションズ

Column

ゲノムとがん

「医薬」よもやまばなし

2022年02月10日

日本における死因としては30年以上にわたって第1位で、しかも今や男性で3人に2人、女性では2人に1人が罹患するという生涯罹患率の高い「がん」。
この「がん」という病気にはゲノムが深く関わっています。
今回は、この「がん」という病気とゲノムの関係についてみてみましょう。

がんという病気(病態)

「がん」は元々自分の正常細胞であったものが、異常な細胞となってむやみに増殖してしまうものです。
正常細胞では細胞の数が適正になるように増殖がコントロールされています。しかし、この増殖をコントロールする仕組みが働かなくなった異常細胞は増殖し続けます。通常、異常な細胞は免疫機能によって破壊されますが、排除されずに増殖する異常な細胞ががん細胞となります。
がん細胞は増殖して塊となって腫瘍を形成し、周囲の組織へ入り込んで正常細胞を破壊して広がっていきます(浸潤)。更にリンパ等を通って体内を移動して異なる組織で腫瘍を形成します(転移)。

がん(悪性腫瘍)の特徴としては、以下の3点が挙げられます。

  • 自律性増殖:異常な細胞が増え続ける。
  • 浸潤と転移:
    - 浸潤・・周囲の組織に入り込み、正常細胞を破壊して増殖する。
    - 転移・・血流やリンパ系を通って体内を移動し、他の部位で腫瘍をつくる。
  • 悪液質:増殖するために、エネルギーを必要とする正常な組織に必要な栄養を奪う。

ちなみに、「悪性腫瘍」に対して「良性腫瘍」というのがあります。この良性腫瘍では自律性増殖のみであり、浸潤・転移及び悪液質は示さず、また悪性腫瘍よりその進行が緩慢であることが特徴です。

では、そもそもがんの発生の原因となる細胞の異常は何故起こるのでしょうか。

疾患メカニズム

がんでは正常な増殖のコントロールが機能せず、異常に増殖をしてしまいます。これは増殖を制御する遺伝子の異常によることがわかっています。つまり、細胞増殖を制御する遺伝子の異常によってがん細胞となる訳です。

細胞増殖を制御する遺伝子には、増殖を促進するアクセルに相当する遺伝子と、増殖を抑制するブレーキに相当する遺伝子があります。
アクセルを踏み続けた状態、あるいはブレーキが利かない状態では、細胞増殖が続くことになり、がんとなります。このことから、アクセルに相当する遺伝子を「がん遺伝子」、ブレーキに相当する遺伝子を「がん抑制遺伝子」と呼びます。
つまり、がん細胞においては、

  • 細胞増殖を促進する遺伝子「がん遺伝子」の高発現(アクセル過剰)
  • 細胞増殖を抑制する遺伝子「がん抑制遺伝子」の発現低下(ブレーキ不良)
の状態になっているのです。

細胞増殖には増殖刺激に対するシグナル伝達系が備わっており、この伝達系(増殖に関係するタンパク)のどこかに異常があれば、刺激シグナルに無関係に異常な増殖を続けることになります。この増殖関連タンパクに対する遺伝子ががん遺伝子となります。
また、異常増殖を引き起こすものだけでなく、アポトーシス(プログラムされた細胞死)を抑制するがん遺伝子もあります。この場合、本来排除されるべき細胞が排除されず、異常細胞が増えることになります。

細胞増殖の仕組みにおいて異常細胞増殖の抑制に関わるのががん抑制遺伝子です。がん化細胞に対して、細胞増殖の抑制、遺伝子異常の修復、細胞死といった手段で、がんを抑制します。がん抑制が機能しないと、がん細胞が増えてしまいます。

遺伝子の働きの異常には以下の原因がありますが、複雑に影響しあって複合的な場合も多いようです。

  • ゲノム(DNA)の異常により遺伝子やその制御領域に変異が起こり、遺伝子の発現や機能が変化する
  • エピゲノムの異常により遺伝子の発現が変化したりゲノムが不安定化したりする

ゲノムDNAレベルの変異には、塩基配列の置換や欠失、挿入、重複、転座などがあり、遺伝子の機能が失われることが多いですが、機能の亢進や異なる機能が付加される場合もあります。
エピゲノムの変化には、DNAのメチル化やヒストン修飾、それに伴うクロマチンの変化などがあります。

これらの異常(変異)は、紫外線や化学物質などの環境や栄養状態といった外的要因、遺伝的要因や複製エラーなどの内的要因によって起こります。
網膜芽細胞種のように一つの遺伝子変異によるものもありますが、通常は、ひとつの遺伝子変異が起こるだけではがんにはならないと考えられています。遺伝子変異が次第に積み重ねられた結果としてがんが発生するという多段階発がん説が広く受け入れられています。
このことから、一般的に加齢によって変異が蓄積することにより発がんリスクは高まります。

◇ がんゲノム医療
がんは遺伝子に変異が生ずることで発症するといっても、その原因となる遺伝子は様々です。
がんの特徴を遺伝子レベルで調べる遺伝子検査も進展しており、少数の特定の遺伝子変異だけでなく、複数の遺伝子変異を一度の検査で調べることができる「がん遺伝子パネル検査」が出てきています。
がん患者さんによって異なるがんの遺伝子変異がこうした遺伝子検査によって明らかとなります。その情報、つまりがん患者さんのゲノムの違い(がんの原因となる遺伝子変異)に着目し、それに応じた病気の診断や治療を行うのが、がんゲノム医療です。
現状、検査で明らかとなった遺伝子変異に対する効果的な治療法は限定的ですが、治療法の開発の進展によってその有用性は高まることが期待されます。

私たちの健康に大きな役割を担う医薬品、そして医療・ヘルスケア。
そうしたQOL(Quality Of Life)産業界全般にわたって、そのプロセスや情報を支えるITを介して、日立医薬情報ソリューションズは人々の健康・QOL向上に貢献していきます。


2022年02月10日
吉田 亜登美

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