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株式会社日立医薬情報ソリューションズ

Column

ゲノムと病気

「医薬」よもやまばなし

2022年01月11日

ゲノムの多様性によって同じ種であっても個体差が生じます。血液型や体質といった形質への決定・影響があるのですが、この多様性が病気に繋がることもあります。
病気(疾患の発症)の要因としては、遺伝要因と環境要因がありますが、今回はゲノムと病気(がん以外)についてみてみましょう。尚、がんについては改めて取り上げることにします。

単一遺伝子疾患

メンデルの法則に従う典型的な遺伝病は、単一の遺伝子変異によるもので、原因となる遺伝子変異を持つ人のほとんどが発症するとされています。

単一遺伝子疾患としては、遺伝様式に以下のタイプがあります。

  • 常染色体優性疾患:常染色体(性染色体以外の染色体)上の2つの遺伝子のうち、どちらかが変異しているときに発症する。この場合、変異した遺伝子の形質が正常な遺伝子に対して優性となる。
  • 常染色体劣性疾患:常染色体(性染色体以外の染色体)上の2つの遺伝子がともに変異しているときに発症する。変異した遺伝子と正常な遺伝子を持つ場合には発症しない(変異した遺伝子の形質が正常な遺伝子に対して劣性)。
  • 伴性遺伝性疾患:性染色体は常染色体とは異なる特殊な染色体で、男性XY(X染色体+Y染色体)、女性XX(X染色体+X染色体)となっている。多くはX染色体連鎖劣性遺伝。この場合、男性は母親由来のX染色体に疾患遺伝子があると発症する(Y染色体では機能が補完されない)が、女性はX染色体を2本持つので、一方の遺伝子が正常であれば発症しない。

単一遺伝子疾患の例としては、代謝に関わる酵素欠損を原因遺伝子とする(遺伝子変異により必要な酵素を作ることができない)種々の先天性代謝異常症があります。また、重篤な精神疾患であるハンチントン病(脳の線条体の強い変性・細胞死による筋肉の不随意運動を生ずる)は常染色体優性疾患であり、ハンチントン病の原因となるタンパクをコードしています。デュシェンヌ型筋ジストロフィーは伴性遺伝性疾患で、母親から男児に遺伝します。

エピジェネティクスの先天異常

遺伝情報の発現を制御するエピジェネティクスにおいて、「転写すべき/すべきでない領域を見分ける目印」に対するwriter(目印をつける)/ eraser(目印を外す)/ reader(目印を読み取る)をコードする遺伝子の変異が原因で起こる先天性の病気が知られています。
遺伝子変異はあるのですが、その対象が疾患の直接的原因となるタンパク本体の設計図ではなく、その発現異常に関わるタンパクの遺伝子であることが、上述の遺伝子疾患と異なります。

小頭性小人症や過成長症候群といった成長障害や器官障害、知能・精神障害など、種々の先天性疾患が原因遺伝子とともに明らかになってきています。

多因子遺伝子疾患

複数の遺伝子変異が発症に関与する疾患では、個々の遺伝子の疾患に対する寄与が大きくないために、原因となる変異遺伝子があっても必ずしも発症するとは限らず、また環境要因も関与するとされます。
多因子遺伝子疾患は、単一遺伝子疾患で認められるメンデルの法則に従う遺伝様式を示さないのですが、罹患者の血縁者における発症率が高いことや一卵性双生児において同じ疾患に罹患する頻度が高いことが特徴として挙げられます。発症に関わる遺伝子を「疾患感受性遺伝子」と呼び、発症リスクを押し上げる影響があります。

本態性高血圧症、糖尿病などの生活習慣病、関節リウマチなどの自己免疫疾患や精神・神経疾患といった普通にみられる多くの疾患がこれに該当するとされます。先天性心疾患やヒルシュスプルング病、口唇口蓋裂などの先天性奇形も多因子遺伝病と考えられています。

環境要因とエピジェネティクス

環境要因がエピゲノムに影響を及ぼすことが、分子レベルで分かるようになってきています。
エピゲノムに影響を及ぼす環境要因には、気候・天候、栄養、化学物質、生活習慣、感染や炎症など、様々なものが含まれます。
これらの影響を受けてエピジェネティクスの状態が変化し、遺伝子発現の変化が引き起こされます。



エピゲノムを解読する学問であるエピゲノミクスはゲノミクスに続く新しい研究領域です。
近年の技術の進展によってゲノム・エピゲノムの研究が可能となり、様々な病気に関する情報が明らかになって診断や治療に役立つことが期待されています。



◇ 染色体レベルの異常
ゲノム・エピゲノムレベルでの異常はなくても、染色体レベルの異常というのもあります。染色体異常では妊娠が継続できずに流産の可能性が高いですが、ダウン症候群のように生存率の高いものもあります。
染色体は2本で1セットですが、特定の染色体が3本あるいは1本というように数的異常が起こることがあります。例えば、21番染色体が3本(1本過剰)存在する場合(トリソミー)にはダウン症候群になります。また、染色体の全体または一部が他の染色体と不適切に結合する転座を起こしているような構造異常もあります。21番染色体でもこの転座によって結果的に染色体が過剰になっている場合、ダウン症候群となります。
ダウン症候群は新生児にもっとも多い遺伝子疾患です。

私たちの健康に大きな役割を担う医薬品、そして医療・ヘルスケア。
そうしたQOL(Quality Of Life)産業界全般にわたって、そのプロセスや情報を支えるITを介して、日立医薬情報ソリューションズは人々の健康・QOL向上に貢献していきます。


2022年1月11日
吉田 亜登美

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