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株式会社日立医薬情報ソリューションズ

Column

ゲノムと多様性

「医薬」よもやまばなし

2021年12月10日

ヒトゲノムプロジェクトによって、21世紀初頭にヒトゲノムの解読が達成されました。これはヒトゲノムの塩基配列が特定できたということです。同時に、このゲノム解読を通して、ゲノム配列に個人差があることが明らかになりました。また遺伝子の発現メカニズムに関する研究も進んできています。
今回は、同じ種であっても種々の形質の違い、すなわち個体差を生じさせるゲノムを取り巻く多様性についてみてみましょう。

DNA配列における多様性

ヒトゲノム解読によって、個人個人のゲノムの塩基配列に差異が認められ、ヒトゲノムの多様性が明らかとなりました。

ゲノム(DNA)の塩基配列の変化としては以下のようなものがあります。

  • 一塩基変異:同じ位置の1塩基が異なる。一塩基変異のうちで比較的高頻度のものを一塩基多型(SNP)という(ヒト集団の中で頻度が1%以上のものをSNPと呼ぶことが多い)。
  • 反復配列の多型:短い配列(1~数十塩基)の反復数が異なる。
  • 塩基配列の挿入・欠失:短い配列が挿入または欠失している。
  • コピー数多型:複製時のミスなどで比較的長い領域が重複/欠失することでその領域のコピー数に違いが生ずる。

特定の塩基が他の塩基に置き換わる一塩基変異が起きたらどうなるでしょうか。
変異箇所がタンパクをコードする遺伝子だった場合、3塩基(コドン)が1アミノ酸を指定するので、コドン表(3塩基の配列と指定されるアミノ酸の対応表)から変異の影響は以下のようになります。

  • サイレント変異・・複数のコドンが同じアミノ酸を指定するが、これに該当するとコードされるアミノ酸は変わらず影響はないと考えられる。
  • ミスセンス変異・・塩基が異なることでコードされるアミノ酸が変わるケース。指定されるアミノ酸の性質が類似しているかどうかによって、タンパクの構造への影響は異なると考えられる。
  • ナンセンス変異・・コドンのなかにはタンパク合成終了のシグナルとなる終始コドンがある。塩基の変化によりこの終始コドンに代わると、タンパクのアミノ酸配列が途中で終了するために本来のタンパクとはならず、影響は大きいと考えられる。
また塩基配列の挿入・欠失による変異が起きた場合、その数が3の倍数でない場合はコドンの読み取り枠が変わってしまいます。これはフレームシフト変異と呼ばれ、以降のアミノ酸配列が異なってしまうので影響が大きくなります。この場合、タンパクの機能に関わる部位であれば影響はより大きくなると考えられます。

こうした塩基単位の置換等の変異以外に、領域レベル(50塩基対以上)で起こる変異を構造多型と呼びます。
ある領域の重複・欠失・挿入、本来の領域の並びと逆になる逆位、染色体の隣接位置に相同性の高い配列が存在した場合に起こる相同性組換え、染色体の一部が他の部位と融合する転座などがあります。

エピジェネティクス

一方で、DNAの塩基配列の変化を伴わない「エピジェネティクス(エピゲノム)」というのがあります。これは遺伝情報の発現制御機構です。

例えば、身体の細胞が全て同じゲノムDNAを持つにもかかわらず細胞種類ごとに異なる形態・機能を持つのは、このエピジェネティクスによるものです。つまりDNA配列(設計図)のどの部分を有効にするかをコントロールしている訳です。
こうした遺伝子発現制御が本来の状態と異なれば、病気に繋がることもあります。
DNA配列が同じ一卵性双生児の形質や発症などの種々の差にも、このエピジェネティクスが関わっていると考えられています。

エピジェネティックな変化としては、分子レベルでDNAのメチル化とヒストン修飾が知られています。

  • DNAのメチル化・・特定配列のC(シトシン)にメチル基が付加する。DNAのメチル化により転写が抑制されて遺伝子発現が抑制される。酵素によるメチル化・脱メチル化の仕組みがある。
  • ヒストン修飾・・DNAが巻き付いているヒストンタンパクに対して、メチル化、アセチル化、リン酸化、ユビチキン化など多様な化学修飾が起きる。これによってクロマチン構造に変化が起き、転写が制御されて遺伝子発現が活発化あるいは抑制される。

これ以外にもクロマチン構造に関わる因子があり、遺伝子の転写には様々な因子が絡み合っていて複雑に制御されています。
エピジェネティックな修飾は、単独で機能する場合もありますが、複数の修飾が関与する場合もあります。

エピジェネティックな発現制御機構の基本要素(エピジェネティック制御因子)としては、「転写すべき/すべきでない領域を見分ける目印」に対する機能の観点で、以下が挙げられます。

  • ライター(Writer):目印をつける・・DNAメチル化酵素およびヒストン修飾酵素
  • イレイサー(Eraser):目印を消す(外す)・・DNA脱メチル化酵素およびヒストン脱修飾酵素
  • リーダー(Reader):目印を読み取る・・DNAメチル化およびヒストン修飾の認識タンパク

エピジェネティクスは個体の発生・分化や老化、個人差や環境適応など様々な生命現象に関わっており、エピジェネティクスの異常が病気に繋がることにもなります。 細胞レベル、個体レベルいずれにも関与する重要な機構と言えます。



塩基配列の変化は稀ですが、起こった場合には不可逆的なものであるのに対し、エピジェネティックな変化は、発生過程のように厳格性をもつ場合がある一方、環境などによるゆらぎや柔軟性があって可逆的な変化であることが多いのも特徴です。
ゲノム・エピゲノムの多様性は形質の多様性に繋がるものです。

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2021年12月10日
吉田 亜登美

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