ヒトゲノムプロジェクトによって、21世紀初頭にヒトゲノムの解読が達成されました。これはヒトゲノムの塩基配列が特定できたということです。同時に、このゲノム解読を通して、ゲノム配列に個人差があることが明らかになりました。また遺伝子の発現メカニズムに関する研究も進んできています。
今回は、同じ種であっても種々の形質の違い、すなわち個体差を生じさせるゲノムを取り巻く多様性についてみてみましょう。
ヒトゲノム解読によって、個人個人のゲノムの塩基配列に差異が認められ、ヒトゲノムの多様性が明らかとなりました。
ゲノム(DNA)の塩基配列の変化としては以下のようなものがあります。
特定の塩基が他の塩基に置き換わる一塩基変異が起きたらどうなるでしょうか。
変異箇所がタンパクをコードする遺伝子だった場合、3塩基(コドン)が1アミノ酸を指定するので、コドン表(3塩基の配列と指定されるアミノ酸の対応表)から変異の影響は以下のようになります。
こうした塩基単位の置換等の変異以外に、領域レベル(50塩基対以上)で起こる変異を構造多型と呼びます。
ある領域の重複・欠失・挿入、本来の領域の並びと逆になる逆位、染色体の隣接位置に相同性の高い配列が存在した場合に起こる相同性組換え、染色体の一部が他の部位と融合する転座などがあります。
一方で、DNAの塩基配列の変化を伴わない「エピジェネティクス(エピゲノム)」というのがあります。これは遺伝情報の発現制御機構です。
例えば、身体の細胞が全て同じゲノムDNAを持つにもかかわらず細胞種類ごとに異なる形態・機能を持つのは、このエピジェネティクスによるものです。つまりDNA配列(設計図)のどの部分を有効にするかをコントロールしている訳です。
こうした遺伝子発現制御が本来の状態と異なれば、病気に繋がることもあります。
DNA配列が同じ一卵性双生児の形質や発症などの種々の差にも、このエピジェネティクスが関わっていると考えられています。
エピジェネティックな変化としては、分子レベルでDNAのメチル化とヒストン修飾が知られています。
これ以外にもクロマチン構造に関わる因子があり、遺伝子の転写には様々な因子が絡み合っていて複雑に制御されています。
エピジェネティックな修飾は、単独で機能する場合もありますが、複数の修飾が関与する場合もあります。
エピジェネティックな発現制御機構の基本要素(エピジェネティック制御因子)としては、「転写すべき/すべきでない領域を見分ける目印」に対する機能の観点で、以下が挙げられます。
エピジェネティクスは個体の発生・分化や老化、個人差や環境適応など様々な生命現象に関わっており、エピジェネティクスの異常が病気に繋がることにもなります。 細胞レベル、個体レベルいずれにも関与する重要な機構と言えます。
塩基配列の変化は稀ですが、起こった場合には不可逆的なものであるのに対し、エピジェネティックな変化は、発生過程のように厳格性をもつ場合がある一方、環境などによるゆらぎや柔軟性があって可逆的な変化であることが多いのも特徴です。
ゲノム・エピゲノムの多様性は形質の多様性に繋がるものです。
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2021年12月10日
吉田 亜登美