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株式会社日立医薬情報ソリューションズ

Column

アルコール体質と遺伝子の話

「医薬」よもやまばなし

2021年11月10日

薬や食品に対する反応の個人差の要因の一つに「体質」が挙げられます。
一般に体質には遺伝による先天的なものと、ライフスタイルや環境要因のような後天的なものが影響しています。
お酒の強さも遺伝形質の一つで、遺伝子が関係しています。
今回はこれをみてみましょう。

アルコールの体内動態

飲酒によって体内に入ったアルコールはどうなるか、その体内動態(薬の体内での動きADMEと同じです)をみてみましょう。

口から入ったアルコールは、約20%は胃、残りは小腸上部で吸収されます。
胃・腸から吸収されたアルコールは血液に溶け込み、門脈という太い静脈に入り肝臓に送られます。

摂取されたアルコールの大半は、肝臓で2段階の酸化反応によって分解(代謝)されます。
アルコールは、主にアルコール脱水素酵素(ADH)の働きによってアセトアルデヒドに、更にアルデヒド脱水素酵素(ALDH)の働きによって酢酸へと分解されます。

肝臓でできた酢酸は、血液を通って筋肉や心臓に移動してさらに分解されて炭酸ガス(二酸化炭素)と水になり、最終的には体外に排出されます。
また、体に入ったアルコールの一部は、体内で処理されないまま、尿や汗、呼気となって、直接体外に排出されます。

アルコールの分解

お酒の強さを決めるもの

お酒を飲んだ時に、顔が赤くなったり、動悸や吐き気、頭痛が引き起こされるなどの原因となるのは、有害なアセトアルデヒドです。
ということは、有害なアセトアルデヒドを無害な酢酸へ速やかに分解することができれば、お酒に強いということになります。

アセトアルデヒドの分解は、この反応を進める酵素(アルデヒド脱水素酵素ALDH)の働きによるものです。
アルデヒド脱水素酵素(ALDH)には2種類あります。

  • ALDH1型:血中アセトアルデヒド濃度が高くなってから作用が始まり、ゆっくり分解する酵素(やや弱い補助的な酵素)
  • ALDH2型:血中アセトアルデヒド濃度が低い時点から作用する強力な酵素

お酒が強い人と弱い人の差は、このALDH2型の酵素活性の強さによる訳です。

酵素活性と遺伝子

ALDH2型は、遺伝子の塩基配列の違いによって酵素活性の強いものと活性をほとんど示さないもの(遺伝子多型)が知られています。

12番染色体にあるALDH2遺伝子の112241766番目の塩基が「G(グアニン)」の場合、504番目のアミノ酸を指令するコドンが「GAA」となってここのアミノ酸は「グルタミン酸」となります。この遺伝子から作られるALDH2型は高活性型(酵素活性が高い)となります。同じ個所の塩基が「A(アデニン)」では、コドンが「AAA」となってアミノ酸は「リジン」となり、この酵素はほとんど活性を示しません。

実際には上記の酵素ユニットが4つ集合(4量体)して、アルデヒド脱水素酵素として機能するのですが、一つでも不活性型を含むと活性は低下してしまいます。

遺伝的要因としてみてみると、遺伝子は両親からそれぞれ1つずつ受け継ぎます。

  • 両親から酵素活性が高い遺伝子
    ⇒NN型・・ALDH2型の正常活性(活性型)遺伝子型
    ⇒お酒に強い
  • 分解能力が高い遺伝子+分解能力が低下した遺伝子
    ⇒ND型・・活性の低い(低活性型)遺伝子型
    ⇒ある程度は飲める
  • 両親から分解能力が弱い遺伝子
    ⇒DD型・・ALDH2型の活性のない(失活型)遺伝子型
    ⇒ほとんど/全く飲めない

同じ量の酒を飲んだ場合の血中アセトアルデヒド濃度は、ND型はNN型の人の4~5倍、DD型はNN型の人の20~30倍になると言われています。

遺伝子の中の一つの塩基が変わるだけで作られるタンパク(酵素)が変わり、結果として体質の一要素が異なるものになるというケースです。
このように遺伝子配列の中で特定の一塩基が異なるものをSNP(一塩基多型)と呼びます。

◇ 人種差
ヒトはもともとNN型でしたが、数千年前シベリア地方あるいは東アジアで遺伝子に突然変異が生じ、これが東アジアに広がっていったと言われています。 したがってヨーロッパ・アフリカ等の人種は殆どNN型で、モンゴロイド(蒙古系人種)に属する中国、朝鮮半島、日本、東南アジア地方の人種は一定の割合でND型/DD型がいるとのことです。 日本人では、NN型の人は5割、ND型の人は4割、DD型の人は1割と言われています。

◇ 訓練でお酒は強くなるのか
低活性型(ND型)の人は、本来お酒に弱いのですが、習慣的な飲酒によって酵素誘導が起きてアルコールの分解能力が高まり、次第にお酒に強くなってある程度は飲めるようになります。それでもNN型の人に比べれば分解能力は低く、アセトアルデヒドの毒性にさらされる時間が長い分、身体への害、病気のリスクが高くなるとも言われています。
失活型(DD型)では基本的にアセトアルデヒドを分解できないので、少量のアルコールでも急性アルコール中毒になることもあり、無理して飲むことは厳禁です。
活性型(NN型)の人は習慣的な大量飲酒によるアルコール依存症に要注意です。

私たちの健康に大きな役割を担う医薬品、そして医療・ヘルスケア。
そうしたQOL(Quality Of Life)産業界全般にわたって、そのプロセスや情報を支えるITを介して、日立医薬情報ソリューションズは人々の健康・QOL向上に貢献していきます。


2021年11月10日
吉田 亜登美

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