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株式会社日立医薬情報ソリューションズ

Column

ゲノムの話

「医薬」よもやまばなし

2021年09月10日

病気の原因や罹りやすさ、薬の効果や副作用の度合いなど、個人で異なることが多々あります。その要因の一つに、ゲノムが挙げられます。ゲノムは生命科学の根幹をなすものですが、医療においても重要なものです。
そもそもゲノムとは何か、ヒトゲノムについて基本的な事項からみていくことにしましょう。

ゲノム

ゲノムは生物の設計図、遺伝情報の全体を表す言葉です。
その情報の実体はDNAという物質にあります。

ヒトを構成する約60兆個の細胞にはそれぞれ核(細胞核)があり、その中にDNAはヒストンというタンパクとの複合体(クロマチン)として存在しています。
クロマチンは、複数のヒストンにDNAが少しずつ巻き付いたもの(ヌクレオソーム)が連なり、それがらせん状になり、更に高次のらせん構造に折りたたまれています。

体細胞の核には父親由来の染色体23本と母親由来の染色体23本、つまり23対の染色体(22対の常染色体と1対の性染色体)があります。染色体の実体はクロマチンです。
23本で1組となる染色体のDNAが持つ遺伝情報をゲノムと呼び、体細胞は2セットのゲノムを持っていることになります。

ヒトのからだは、1細胞からなる受精卵が細胞分裂を繰り返し、更に多様に分化(ある機能や形をもつ細胞に変化すること)して形づくられています。どの細胞も同じゲノムを持つ一方、その働きを制御することで多様な細胞を形成しています。

DNAの構造

DNA(デオキシリボ核酸deoxyribonucleic acid)の構成単位は五炭糖・リン酸・塩基からなるヌクレオチドです。DNAの五炭糖(ペントース)はデオキシリボースです。
核酸は、このヌクレオチドが結合して五炭糖・リン酸-五炭糖・リン酸というように連続的に繋がっているものです。
塩基としては、アデニン(A)、シトシン(C)、グアニン(G)、チミン(T)の4種があります。
またDNAは通常二本鎖構造をとりますが、塩基部分が相対する塩基と水素結合によって塩基対(A-T/G-C)をつくり、二重らせんを形成します。

DNAの構成単位(ヌクレオチド・塩基)

ちなみに核酸としては、RNA(リボ核酸ribonucleic acid)というのもあります。
DNAとの差異は、五炭糖部分がデオキシリボースではなくリボース、塩基ではチミンの代わりにウラシルとなります。

DNAの機能・役割

DNAは、遺伝情報の伝達と発現という役割を持ちます。

遺伝情報の伝達はDNAの複製によってなされます。
細胞から細胞へ遺伝情報を伝達するには、細胞分裂前にDNAを複製して2セット持ちます。
二本鎖をほどいて、各一本鎖を鋳型にしてそれぞれ新しい一本鎖を合成することで、二本鎖が2セットできる仕掛けになっています。
このDNAの複製には、DNAポリメラーゼをはじめ、多くの酵素が関与しています。

遺伝情報の発現というのは、DNA上に書かれた設計図を実行することです。
この設計図というのは、タンパクの設計図です。
タンパクというのは、アミノ酸が並んだものですから、このアミノ酸の配列情報がDNAに書かれているということになります。
DNA全体には多種多様なタンパクの情報が含まれており、DNAのある部分の塩基配列が特定のタンパクのアミノ酸配列を表しています。
遺伝情報の発現としてタンパクをつくるときのアミノ酸配列を指定する情報(特定部分のDNAの塩基配列)が「遺伝子」です。つまりDNAの一部が遺伝子として働き、DNA上にこの遺伝子が多く含まれた形になっています。
ゲノム解析というと、まずはDNAの塩基配列を決定することですが、どの部分がどういうはたらきをするか、つまりどこがどういう遺伝子なのかという機能解析が重要になります。

遺伝子発現のメカニズム

どの細胞も同じDNAを持っていますが、実際にはその細胞で必要なタンパクをつくる遺伝子だけを使っています。そのDNAの一部を鋳型にしてmRNA(messenger RNA)に写し取り、この情報を翻訳してアミノ酸を繋げてタンパクを作ります。これをセントラルドグマといいます。

セントラルドグマ

そのプロセスはおよそ以下のようになります。

  1. 核内で、DNAの中の目的遺伝子部分をコピー(転写)して、mRNAをつくる。
    遺伝子は、設計図の対象となるエクソン(翻訳領域)が対象外のイントロン(アミノ酸配列情報を持たない領域)で分断される形になっている。このイントロンをスプライシングという方法で除外し、アミノ酸配列情報になるエクソン部分に対応したmRNAをつくる。
  2. mRNAが核の外へ出る。
  3. mRNAの情報を元に、対応するアミノ酸を繋げて(翻訳)タンパクを組み立てる。
    • mRNAの塩基配列3個(コドン)で、1つのアミノ酸を指定する。
    • 転写されたmRNAがリボソームに結合する。
    • リボソーム内で、mRNAのコドンに対応するアミノ酸が tRNA(トランスファーRNA)によって運ばれてくる。tRNAは、mRNA中のコドンを認識するアンチコドンと呼ばれる部分と、このアンチコドンに対応するアミノ酸と結合する部分からなる。
    • 順次、コドンに対応したアミノ酸が運ばれてきて、アミノ酸の連なったポリペプチドができ、最終的に機能を持ったタンパク質となる。


各細胞の細胞核には全設計図の情報が格納されており、必要に応じて必要な部分が機能するようにコントロールされています。DNAの中でタンパクのコードに関係する遺伝子部分以外については、意味のない「ジャンクDNA」とされていましたが、実はタンパクコード以外の然るべき機能を担っているとして研究が進められています。


◇ タンパクの基本構造
タンパクの構成単位はアミノ酸です。一つの炭素にアミノ基とカルボキシ基が結合していて、この炭素に結合している側鎖がアミノ酸の種類を決定しています。タンパクを構成するアミノ酸の種類は20種です。
複数のアミノ酸が隣り合うアミノ基とカルボキシ基の間でペプチド結合して連なったものがタンパクです。
アミノ酸の並び(配列)を一次構造と言います。部分的に特徴的なαヘリックスやβシート等を形成し(二次構造)、更に全体としての立体構造(三次構造)をとります。また複数(同種または異種)のタンパクが組み合わさって、より複雑な構造(四次構造)を形成します。

タンパクの基本構造


◇ ゲノムという用語
ゲノム(Genome)とは遺伝情報の全体を意味しますが、これは遺伝子(gene)に総体を表す接尾語(-ome)を付けたものです。
またオミックスというのは総体を表す接尾語(-ome)に学問を意味する接尾語(-ics)を合成したものですが、生体を構成する対象を網羅的に研究するもので、遺伝子を対象にした学問・研究はゲノミクス(Genomics)と呼ばれます。

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2021年09月10日
吉田 亜登美

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