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株式会社日立医薬情報ソリューションズ

Column

同じ効果をもつ複数の薬-降圧薬の場合

「医薬」よもやまばなし

2021年08月05日

いろいろな医薬品の開発が進められています。これまで治療法がなかった病気に対する薬が開発されて治療に使われるというのは当然望まれるところですが、既に治療薬が存在する病気に対して同様の効果を示す新たな薬も開発されています。
これはどういうことでしょうか。
今回は簡単な例として、高血圧で使われる血圧を下げる薬(降圧薬)を例にみてみましょう。

血圧の調節

血圧というのは、血液が血管壁に与える圧力(血管内圧)のことで、一般には動脈の内圧を指します。
血圧は心拍出量(心臓から拍出される血液量)と末梢血管抵抗(血管内での血液の流れにくさ)によってほぼ決まります。
血圧に関わる因子としては、心拍出量には心拍数、心収縮力、循環血液量、末梢血管抵抗には血管の内腔径(収縮・拡張で変化)や血液の粘性が関わります。

人体には血圧を一定に維持する仕組みがありますが、高血圧はこれが上手く機能しきれずに血圧異常を起こしてしまうものです。

血圧を維持する循環調節をおおまかにいうと、血管には血行動態をモニタリングするセンサー(受容器)があり、「受容器が血行動態の変化を感知し、その受容器からの情報を脳幹にある循環中枢が受け取り、循環調節を作動させる」ということになります。

循環調節としては、神経性調節と液性調節があります。

  • 神経性調節:交感神経系と副交感神経系からなる自律神経系による循環調節
  • 液性調節:ホルモンなどの液性因子による循環調節
これ以外に循環中枢を介さない局所調節があります。局所調節は、平滑筋や心筋自体に備わった調節機構です。

高血圧

高血圧には、何らかの原因疾患があってその症状として高血圧となる二次性高血圧と、原因疾患の特定できない本態性高血圧があります。高血圧の大半は本態性高血圧です。高血圧には、何らかの原因疾患があってその症状として高血圧となる二次性高血圧と、原因疾患の特定できない本態性高血圧があります。高血圧の大半は本態性高血圧です。

二次性高血圧では原因疾患の治療により高血圧の症状は寛解します。

高血圧が慢性的に持続すると、血管障害や心肥大(心筋細胞肥大による左室肥大)を生じ、更に脳血管疾患や心血管疾患などを引き起こします。このことから血圧を下げて適切な状態を維持する必要があります。

降圧薬

本態性高血圧の治療では、生活習慣の修正が基本になります。これだけで充分でなければ薬物療法を行います。
血圧を下げる薬(降圧薬)の主なものとして以下の薬剤があります。

  • Ca(カルシウム)拮抗薬:細胞のCa2+チャネル(カルシウムチャネル)を遮断して細胞へのCa2+(カルシウムイオン)流入を阻害することで細胞質のCa2+濃度を下げる。心筋では心収縮力を低下させて心拍出量を減少させる。血管では血管平滑筋を弛緩させて血管を拡張させる。
  • ARB(アンジオテンシンⅡ受容体拮抗薬):アンジオテンシンⅡの作用する受容体をブロックすることで、アンジオテンシンⅡの作用である血管収縮作用を抑制する。また、副腎からのアルドステロン分泌を抑制することで、腎臓でのNa+(ナトリウムイオン)再吸収を抑制し、循環血漿量を減少させる。
  • ACEI(アンジオテンシン変換酵素阻害薬):アンジオテンシンⅡの合成に関わるACE(アンジオテンシン変換酵素)を阻害することで、血管収縮作用のあるアンジオテンシンⅡの産生を抑制する。
  • 利尿薬:腎臓でのNa+再吸収を抑制し、循環血漿量を減少させる。
  • β遮断薬(βブロッカー):交感神経のβ受容体をブロックすることにより、交感神経刺激を抑制する。心筋では心拍数・心収縮力を低下させることで心拍出量を減少させる。腎臓ではレニン産生を低下させることで、血管収縮作用を持つアンジオテンシンⅡ産生を抑制する。
  • ミネラルコルチコイド受容体拮抗薬(MRA):アルドステロンが作用するミネラルコルチコイド受容体の活性化を阻害することで、腎臓ではNa+再吸収を抑制して循環血漿量を減少させ、血管では収縮を抑制する。
これらの薬の作用する部位は多様ですが、結果として、血管拡張、心拍出量減少、循環血漿量減少のいずれかにより血圧を下げるものです。

再生医療等に関する規制の枠組み

血圧のコントロールにはいろんなメカニズムが働いており、作用メカニズムの異なる薬が開発されている訳です。研究によって新たなメカニズムが解明されれば、これに対する薬の開発も進められます。


同じ症状・病態であっても、疾患メカニズムは複雑だったり、多様だったりします。そのどの部分にどのように作用させることで治療に繋がるのか、その研究によって種々の作用メカニズムに対応する薬が開発されます。
同じ病気のようであっても、より詳細にみていくと、いくつかに分類できていくこともあります。(例えば、頭痛も国際頭痛分類によって細かく分類、定義されています)
もちろん、同じ作用メカニズムであってもより良い(有効性・安全性が高い)薬の開発も進められるのですが、疾患に対する研究によって新しい知見が得られると、これに対応した新たな薬が研究されていくのです。

私たちの健康に大きな役割を担う医薬品、そして医療・ヘルスケア。
そうしたQOL(Quality Of Life)産業界全般にわたって、そのプロセスや情報を支えるITを介して、日立医薬情報ソリューションズは人々の健康・QOL向上に貢献していきます。


2021年08月05日
吉田 亜登美

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