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株式会社日立医薬情報ソリューションズ

Column

バイオ医薬品

「医薬」よもやまばなし

2019年10月24日

従来は化学合成による低分子医薬品が主流でしたが、最近では生物によって生産される物質に由来するバイオ医薬品が台頭しています。今回は、このバイオ医薬品の概要を見てみましょう。

バイオ医薬品とは

生物によって生産される物質に由来する医薬品をバイオ医薬品(生物学的製剤)と呼びます。
一般に、遺伝子組換え技術や細胞培養技術等のバイオテクノロジーを応用して製造されるタンパク質を有効成分とする医薬品を指します。現在の主役は抗体医薬です。
広義には、ヒト血液から精製される血漿分画製剤のような生体成分由来の医薬品や、ワクチン・ペプチド・核酸医薬品等の生体成分に類似した特性を持つ医薬品も含みます。

主な働きとしては、足りない生理活性タンパク質を補う働き(補充療法)や、病気の原因になる分子の機能を抑える働きといったものがあります。

従来の低分子医薬品は化学合成の工程を経て生産される医薬品で、比較的単純な構造をした小さな分子の有機化合物ですが、バイオ医薬品は生物由来の物質により生産される医薬品で、分子が大きく構造が複雑で製造・安定性の面でも難度が高いといったように差異があります。

代表的なバイオ医薬品

バイオ医薬品の代表的なものとして、ホルモン、サイトカイン、酵素、抗体医薬品等があります。

抗体は抗原(ウィルスやガン細胞等の異物)に対する防御作用として作り出されるタンパクで、免疫応答(抗原-抗体反応)において重要な役割を担うものです。
抗体医薬では特定の抗原を認識するように設計し、攻撃力を高めることで治療に貢献します。標的への高い選択性・親和性を持つことで、より高い安全性が期待できます。
また、生体内で効率よく作用させる工夫を施したり、低分子医薬の運び手として利用する等、高機能化も進められています。
がん細胞特有タンパクを認識する抗腫瘍抗体医薬、リウマチ等の自己免疫疾患に対して免疫機能を調節する免疫調節抗体医薬、がん細胞の免疫抑制に対して抑制シグナル伝達をブロックすることで免疫機能を調節する機能により抗腫瘍効果を発揮する免疫チェックポイント阻害薬といったものがあります。

ホルモンは、生体内の恒常性を維持するために組織の内分泌細胞により産生・分泌され、血流によって標的細胞へ輸送されて標的細胞の機能を調節する物質です。医薬品としては、生体内ホルモンと同じアミノ酸配列の医薬品と一部構造改変医薬品があります。代表例はインスリンです。

サイトカイン・増殖因子は標的細胞の分化・増殖を引き起こす作用を有するタンパクで、サイトカインは主に免疫系細胞、増殖因子は組織を形成する細胞が産生します。
サイトカイン・増殖因子類の医薬品は標的細胞の受容体に結合し、細胞内に伝達されるシグナルによって細胞の増殖・分化、細胞機能の活性化等を引き起こします。
インターフェロン類やインターロイキン類、エリスロポエチン類等があります。

酵素は生体内で起こる化学反応に対して触媒として機能します。酵素が欠損、もしくは活性がない場合に、酵素補充療法として酵素製剤は使用されます。
医薬品としては、血栓溶解に使われる血液凝固線溶系酵素(t-PA)等があります。

血液製剤は欠如した血液成分や血漿因子の補充による健康の維持や病態の改善に使用されます。
献血された血液を原料とする血液製剤としては、輸血用血液製剤と血漿分画製剤があります。血漿成分のうち特に血液凝固因子類では、血漿分画製剤に代わり遺伝子組換え製剤が使用されています。

核酸(DNA/RNA)とは遺伝現象とタンパク合成に関わる物質ですが、核酸医薬品は標的となる疾患関連遺伝子の分解を誘導したり、タンパク質への翻訳を抑制したりする核酸分子です。
標的遺伝子の配列に特異的に作用して機能抑制を誘導します。化学合成が可能で難治性疾患治療に期待があり、神経難病治療薬として承認されたものがあります。

バイオ医薬品の特徴

初めにも少し触れましたが、バイオ医薬品は低分子医薬品(一般的な化学合成の医薬品)とは異なる特徴を持ちます。主なものを下表に挙げます。

バイオ医薬品の特徴
バイオ医薬品
低分子医薬品
分子量が数千~数十万程度の高分子で、構造は複雑。 分子量が小さく(多くは500以下)、構造も単純なものが多い。
変化に敏感な生物を用いた製造工程は制御が難しく、不均一性が排除できない。 比較的制御が容易な化学合成、均一に近いレベルで製造できる。
複雑な製造工程であることから、高精度の品質管理が必要。約250種類の工程内管理試験が行われる。 約50種類の工程内管理試験。
安定性の面(温度・光の影響を受けやすい)から、投与までの保管・品質管理に留意が必要。 安定性の高いものが多い。
生物由来原料を使用する場合は生物由来製品に指定される。
これまでに承認されているバイオ医薬品のほとんどは注射剤。 多種類の製剤。

バイオ医薬品の主な製造方法は以下のステップで行われます。

  1. 目的のタンパクを作るために遺伝子組換え技術を用いて細胞株を樹立
  2. 細胞を培養し、目的タンパクを抽出・精製
  3. 製剤化

バイオ医薬品の品質・有効性・安全性の確保にはその特性に応じた試験が求められます。

バイオ医薬品は生体分子や生体反応を直接的に利用する等、これまでの低分子医薬品とは作用メカニズムが異なります。このことから低分子医薬品では充分に解決できなかった疾患への効果が期待されます。医薬品ランキングでも上位を占めるようになっています。

私たちの健康に大きな役割を担う医薬品。
その萌芽・誕生から退役までのライフサイクルにおけるプロセスや情報は厳しく重要なものです。そうした製薬のプロセスや情報を支えるITを介して、日立医薬情報ソリューションズは人々の健康に貢献していきます。



2019年10月28日
吉田 亜登美

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