ページの本文へ

Hitachi
お問い合わせお問い合わせ

株式会社日立医薬情報ソリューションズ

Column

薬の変遷

「医薬」よもやまばなし

2019年04月22日

今日の医療において、医薬品は欠かせない存在です。病気や怪我は健康、ひいては命にかかわるもの、その治療に役立つものを追究することは自然なことと言えます。
そうしてみると、人と薬の関係は古くからあることがわかります。人類の歴史、とりわけ科学の進展とともに、薬も変遷してきています。では、簡単にその歴史を辿ってみましょう。

薬の起源

人々が暮しの中で、自然界にあるものを病気や怪我の際に使用してみることで、役立つもの(改善効果のあるもの)を経験的に選り分け、使用するようになったのが薬の起源と言えます。
特に植物は「薬草」という言葉があるように、種々のものが用いられ、その知識が記録されています。例えば、中国では漢の時代に365種類の薬草を記した「神農本草経」という本が編纂されています。こうした薬草は生薬として受け継がれ、現在でも漢方として使用されています。

天然物由来の薬

このように、最初は自然にあるものを経験的に有用と思われるところで使っていました。
例えば、柳の樹皮は熱や痛みを和らげる効果があることが知られており、歯が痛いときに柳の小枝で歯の間をこすっていたということです。これが「楊枝(ようじ、ヤナギの枝という意)」の起源と言われています。
この段階では経験的に効果があるということは解っていても、何が効いているかは解っていませんでした。

この柳の有効成分が解明されたのは19世紀になってからです。
天然物から有効成分を分離して「サリシン」(ヤナギの属名Salixに由来)と命名しました。さらにその分解物であるサリチル酸も鎮痛作用を有することが解りました。また構造決定することで、人工的に化学合成することが可能になりました。
更に、サリチル酸の構造の一部を変更(構造修飾)することで、アセチルサリチル酸を作りました。これが100年以上経った現在でも解熱鎮痛剤として世界中で使われている「アスピリン」です。
天然物そのものではなくその有効成分を特定し、更にその構造を変更することで、より副作用を改善した薬が利用できるようになったのです。
同様の手法で、植物から多くの薬が創製されました。

【 アスピリンの誕生 】

20190426_1.gif

20世紀に入り、細菌学者であるフレミングが、実験室において細菌の生育を阻止しているアオカビを見つけ、ここから初の抗生物質「ペニシリン」が特定されました。

ペニシリンを構造修飾した誘導体の開発や、種々の微生物から殺菌作用を持つ抗生物質の開発が進められ、感染症への特効薬として多くの人類の生命を救ったと言えます。このことから、抗生物質の道を切り開いたペニシリンは特筆すべき「20世紀における偉大な発見」に挙げられています。

天然物由来の薬は、有効性を示す活性物質の単離⇒構造決定⇒全合成(人工的に作成)、更に構造改変による改良というプロセスで発展してきました。

【 微生物から発見された抗生物質 】

20190426_2.gif

化学合成による薬

ある効果を示す天然物から薬を作りだすとき、何故その薬が効くのかという作用メカニズムが解明されている必要はありません。
ではそもそも薬はどうして効くのでしょうか。

ヒトの体内では、多くの物質が生体内反応(人体内で起こる化学反応)を起こして生命を維持しています。生体内反応に異常が起こった時、病気になるのです。薬の多くはその生体内反応に関与し、特定の物質の作用を強めたり弱めたりすることで、その効果を発揮します。
生体内の反応を引き起こすシグナル(情報)伝達のメカニズムがあり、そのシグナルが作用する場所を「受容体」と呼びます。この受容体に結合するシグナル伝達物質が「リガンド」です。
受容体に薬が結合することで、

  • リガンドと同じ作用を発揮する(アゴニスト:作動薬)
  • 元来のリガンドが結合できないようにしてその作用を抑制する(アンタゴニスト:拮抗薬)

という形で生体に影響を与えます。
薬と受容体の関係は、鍵と鍵穴に例えられます。

薬が作用する標的の多くは生体内のタンパク質です。タンパク質は生体を構成する物質であり、生命を維持する機能・役割を担っています。
生体内機能や疾患メカニズムの解明が進むに従って、

  1. 薬の作用を発揮させる対象としてのターゲットタンパクの特定・選定
  2. これに対して活性を有効かどうかを篩にかける評価系(スクリーニング系)の構築
  3. スクリーニングによる有用化合物の選別

というプロセスにより、目的の効果を持つ化合物を探します。
この化合物をリード化合物として構造修飾を行い、スクリーニングを繰り返すことでよりよい化合物を探しだし、薬の候補物質を特定します。
このように、リード化合物をより最適な化合物となるように設計すること、あるいは種々の知見からリード化合物を設計することを、「ドラッグ・デザイン」と呼びます。

上述のような構造式レベルで設計された薬は、比較的構造が複雑でなく分子量も大きくない低分子化合物が中心です。
こうして化学合成による医薬品が数多く創製され、医療に多大な貢献をしてきました。

バイオ医薬品

生命科学の進展もあり、生体内の生理活性物質に着目した医薬品の研究が進められています。こうした生体分子や生体反応等を利用した医薬品をバイオ医薬品と呼びます。
バイオ医薬品(バイオテクノロジー応用医薬品)とは、一般的に、遺伝子組換え技術や細胞培養技術等のバイオテクノロジーを応用して製造される医薬品を指します。代表的なものとして、ホルモン、サイトカイン、酵素、抗体等があります。

例えば、抗体は抗原(ウイルスやがん細胞等の異物)に対する防御作用として作り出されるタンパクで、免疫応答(抗原-抗体反応)において重要な役割を担うものです。
抗体医薬では、特定の抗原を認識するように設計し、攻撃力を高めることで治療に貢献します。標的への高い選択性・親和性を持つことで、より高い安全性が期待できます。
また、生体内で効率よく作用させる工夫を施したり、低分子医薬の運び手として利用する等、高機能化も進められています。

その先には・・

従来の医薬品の枠組みを超えたものとして、「再生医療等製品」への取組みが加速しています。これまでの医薬品では治療が望めなかった難治性疾患を対象に、再生医療・遺伝子治療・細胞治療という分野を医療に適用させていくものです。

医学は急速に進展していますが、それでもまだ有効な治療法がない疾患が存在します。そうした、いまだ有効な治療方法がない疾患に対する医療ニーズ(アンメットメディカルニーズ)を充足させることも含め、科学の進展を取り入れ、よりよい薬の創出への取組みが続けられています。

私たちの健康に大きな役割を担う医薬品。
その萌芽・誕生から退役までのライフサイクルにおけるプロセスや情報は厳しく重要なものです。そうした製薬のプロセスや情報を支えるITを介して、日立医薬情報ソリューションズは人々の健康に貢献していきます。



2019年04月26日
吉田 亜登美

Contact Us