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株式会社日立医薬情報ソリューションズ

Column

抗インフルエンザ薬

「医薬」よもやまばなし

2019年01月23日

インフルエンザはインフルエンザウイルスに感染することで発症します。医薬品としては、予防目的のワクチン、治療のための抗インフルエンザウイルス薬があり、より有用性のある新薬が開発されています。

インフルエンザの季節的な流行

今冬もインフルエンザが流行しています。例年、10月頃(2018年は9月)から流行の兆しが見え、11月後半頃から罹患者が大きく増加していき、1月から2月にかけてピークを迎えます。概ね3月、場合によっては4月には収束します。
インフルエンザは世界的に流行するパンデミックが過去に何度か発生しています。有名なのは1918年から広がったスペイン型インフルエンザ(通称、スペイン風邪)です。ワクチンが開発されてからは流行や重症化がある程度抑制されていますが、近年では新型のウイルスも出ています。
昨季(2017/2018シーズン)は1999年の統計開始以来最大の流行となりましたが、今期はそれを上回る勢いです。
流行の状況は、国立感染症研究所(流行レベルマップ)及び厚生労働省(発生状況についての報道発表資料)のホームページから確認することができます。

インフルエンザウイルスの種類

インフルエンザウイルスは、A型、B型、C型の3種類があります。
C型は、鼻かぜ様の症状が出るもののその症状は軽微で、季節性はありません。小児期に罹患することが多く、獲得免疫はほぼ一生保持されます(インフルエンザとは気が付かないうちに罹って免疫を獲得しているかもしれません)。そのため、C型インフルエンザはワクチンや治療薬が対象とする季節性インフルエンザからは除外されます。

B型については宿主はヒトのみで、その変異は緩やかで多様性は少なく、山形系統株とビクトリア系統株が主流です。

A型はウイルス粒子表面に赤血球凝集素(HA)とノイラミニダーゼ(NA)という糖蛋白をもち、HAには16、NAには9の亜型があるため、その組合せで種々のA型が存在します。更に同一の亜型内で抗原性を小さく変化させていくため、免疫機構が追い付かずに毎年流行しています。これが季節性インフルエンザです(季節性インフルエンザにはB型も含みます)。
この抗原性が大きく異なるインフルエンザウイルスが現れると、多くの人が免疫を獲得していないことから季節に関わらず爆発的に流行することがあります(パンデミック)。これが新型インフルエンザです。新型インフルエンザも流行の拡がりで免疫を獲得するにつれ、新型インフルエンザの定義から外れ、季節性インフルエンザとして取り扱われるものもあります。
また、A型インフルエンザウイルスはヒト以外にもブタやトリ等を宿主として広く分布しており、人と動物の共通感染症と捉えることができます。

近年、国内で流行しているのは、AH3N2亜型(香港型)、AH1N1pdm09(2009年流行、pdmはパンデミック)、B型の3種です。

本来有効である抗インフルエンザ薬が効かない、あるいは効きにくくなった場合、その薬に対して耐性を獲得した薬剤耐性インフルエンザウイルスとなります。この薬剤耐性インフルエンザウイルスは、ウイルスが増殖する過程において特定の遺伝子に変異が起こることにより生じると考えられています。

インフルエンザの症状

インフルエンザウイルスに感染すると、1~3日後に発熱、頭痛、筋肉痛などが突然あらわれ、その後にせきや鼻水がでるようになります。普通のかぜ(急性上気道炎)と比べて全身症状が強くあらわれますが、多くの場合は1週間ほどで治まります。しかし、高齢者や慢性疾患を抱えている場合は重症化するリスクが高くなります。

インフルエンザワクチン

インフルエンザワクチンは予防目的で使用されますが、完全に感染・発症を抑えられるわけではありません。ワクチンを接種することでインフルエンザウイルスに対する抗体ができます。これにより、感染後に発症する可能性を低減させる効果と、発症した場合の重症化防止に有効とされています。
HA/NAが変異すると、それに応じた抗体が必要です。そのため、毎年どの亜型・株が流行するかを予測して、それに対応したワクチンを用意する必要があります。

インフルエンザワクチンは13歳以上は原則1回接種、13歳未満は2回接種で、ワクチン接種後2~4週間で効果があらわれ、約5か月間持続します。
ワクチンの効果は、本人の年齢・体調・免疫状況に加え、インフルエンザの流行株とワクチンに含まれるウイルス株の合致状況によって変わります。

ちなみにワクチンも医薬品です。
インフルエンザワクチンは、インフルエンザウイルスの感染性を失わせ、免疫をつくるのに必要な成分を取り出して作った不活化ワクチンです。ウイルスとしての働きはないので、ワクチン接種によってインフルエンザを発症することはありません。
ただし、インフルエンザワクチンは治療目的ではなく予防目的の医薬品ですので、公的医療保険対象外となり、費用は自己負担となります。

抗インフルエンザ薬

国内で使用されている主な抗インフルエンザ薬は以下の5種類です。

  • リレンザ(一般名・・ザナミビル)
  • タミフル(オセタミビル)
  • ラピアクタ(ベラミビル)
  • イナビル(ラニナミビル)
  • ゾフルーザ(バロキサビル)

これ以外に、シンメトレル(アマンタジン:M2プロトンチャネル阻害薬)、アビガン(ファビビラビル:RNAポリメラーゼ阻害薬)が承認されていますが、前者はA型のみ有効でほぼ耐性が獲得されており、また後者は新型インフルエンザ用として承認されているため、通常は使用されていません。
昨年2018年のトピックスとして、新規の作用機序である経口単回投与のゾフルーザが発売され、またタミフルの後発品(沢井製薬、薬価はタミフルの半額)が発売されました。

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インフルエンザウイルスは、体内の細胞の中で増殖し、細胞膜を破って体内に拡がります。
これまでの治療薬の主流はノイラミニダーゼ阻害薬で、これは細胞内で増殖したウイルスが細胞外に遊離するのを抑えるもので、増殖自体を抑制する作用はありません。
これに対し、昨年2018年3月に発売されたゾフルーザは、新規の作用機序であるCapエンドヌクレアーゼ阻害薬です。これは、細胞内でウイルスが増殖するのに必要なRNA複製過程の反応を阻害するため、ウイルスが細胞内で増殖すること自体を抑制します。

投与経路及び用法については、経口・吸入・点滴とあります。タミフルはカプセル剤で飲みやすいものの1日2回×5日間服用し続ける必要があります。昨季は、吸入ではあるものの1回服用で済むイナビルがシェアトップでした。
その点、ゾフルーザは錠剤(顆粒剤は未発売)を1回服用するだけで済むという点が大きな利点となります。

ゾフルーザは有用性が高いように見えますが、処方がまだ他の薬剤に比べて多くないこともあり、副作用や薬剤耐性ウイルスの可能性もあるので、注視する必要があります。

尚、予防投与に関しては、罹患者との接触や重症化リスク等の条件があります(これに該当しないと適応外処方になります)。用法用量も治療の場合とは異なり、公的医療保険の対象外で自費負担となります。また、ワクチンとは異なり、予防効果があるのは薬剤服用期間(イナビルは服用開始から10日間)に限定されます。

私たちの健康に大きな役割を担う医薬品。
その萌芽・誕生から退役までのライフサイクルにおけるプロセスや情報は厳しく重要なものです。そうした製薬のプロセスや情報を支えるITを介して、日立医薬情報ソリューションズは人々の健康に貢献していきます。



2019年02月01日
吉田 亜登美

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